躍起
悪霊……? このタイミングで?
「悪霊を封印したって……あいつはそんな空間に俺を放り込んだって訳なのか。何を馬鹿なことを、冗談がきついぜ……」
本来ならいくら俺だって悪霊を間近にしたら、その溢れる妖力で察知できて、警戒できるはずなんだ。それを俺は察知出来なかった、まるで人間なのか、妖怪なのか、式神なのか、何も分からなかった。
「お~っと、そうだね、君はこう思っているんだね。悪霊なら妖力で判別できるはずだ、なんちゃって。あはははは、甘いよね~その憶測は。僕達悪霊を馬鹿にしているのかなぁ、一千年も一方的に成敗されちゃったら、僕らだって身を隠すテクニックくらい編み出すよ」
不明な点はそこだけじゃない。俺は悪霊に遭遇するのはこれで二度目だ、だから経験というものは少ないかもしれない。だが一応陰陽師になる過程として悪霊の生態について教育を受けてきた。
悪霊は言葉なんか喋らない。精神に話し掛けてくることはある、悪霊がそれを元に一般人を恐怖させることはある。だが、俺のような自分自身の妖力を纏った人間には言葉は通じないはずだ。呻き声にしか聞こえないはずなんだ。
それなのに……どうしてああも抑揚ぶった声を聞き分けられる?
「あははは~、これって陰陽師の失態だよね~。退散させる事に躍起になって、悪霊の精神や感情を理解しようとはしなかった結果がこれだよ~。まあ僕は特別な悪霊だから君と普通に喋れるけども」
長い黒髪を指でクルクル纏めては、するっと解くを繰り返す。楽しそうには見えないが、俺と目線を合わせないようにしているのだろうか。
「特別な悪霊?」
「そうそう、もっと中二病的な表現を使うなら『レベル3』って奴だよ」
レベル? 悪霊に強さの段階なんて……おい、待て。この話はどこかで聞いたことがなかったか? 確か御門城での任務を終えてかわうそに遭遇した時だ、リーダーが俺と鶴見に問題提起をした。
一千年前の悪霊は妖怪の姿をしていた、しかし人間の生活姿の移り変わりと共に悪霊は人間に似た姿に変貌した。
「待てよ、そこまででレベル2だろうが!!」
じゃあレベル3の悪霊が本当に存在するのだとしたら、こいつは紛れも無く化け物だ。それ以前に普通の悪霊と対峙するのに一人はキツイ、俺じゃなくても少人数では勝てないのだ。
「おや~、断片的にでも悪霊の進化論についての知識があるのか~。どうやら第三進化の設定は知らなかった様子だけど。まあい~や、折角のお客さんだからもうちょっと駄弁りたかったけど……この空間から出してあげる」