丁寧
俺が火車の閉まってあるお札を見ていたその時だった、何者かの気配を感じる。一瞬で正気に戻ると、即座に背後を向いた。気のせいだったか、誰もいない。俺はこの絶対絶命な状況に怯えているだけなのか。
「いやいや、今のは私が瞬間移動して君の後ろに回っただけだよ~。君も閉じ込められた訳だよね~、陰陽師の僕」
振り返った直後だった。俺の目の前には死体が直立して……いた?
「うゎあ!!」
「こんにちは~、久々のお客様だな~」
明るく笑顔で手を振って来たが、俺はというと驚いて思いっきり尻餅をついてしまった。そのまま畳にこすり付けながら後退し死体から距離を取る。
「でねぇ~、君は何をしにこんな何もない所に来ちゃったのかな」
何を平然とフレンドリーに会話を始めようとしてくれているのだろうか。俺としては一刻も早くこの部屋から逃げ出したいのだ、やっぱり火車の意見を尊重して放置すべきだったのだ。
「まぁまぁ~、そんな怖い顔しないで~。それで君はこの空間に眠る伝説の秘宝を求めてやってきた探検隊か何かなぁ。残念だったなぇ~、あの噂は嘘だったんだよ~、この空間にはそんなアトラクションは何一つ落ちてないのです~」
何も俺は言って無いのに、随分とべラべラ喋るゾンビじゃないか。俺の心身的なダメージを考えて欲しい。お前と会話することが怖くて堪らないんだよ。
「お……俺は橇引行弓って言います。百鬼夜行という陰陽師機関に属している陰陽師です。こっちは相棒の火車と、引っ込んでいるのがもう一匹。今、俺は目目連っていう妖怪の能力でこの空間に閉じ込められてしまいまして。どうにか脱出方法を模索している最中なのですが」
「おぉ、これはご丁寧に。私は……ワリィ、名前とか無いんだわ~。どうしたの? 相良君と喧嘩でもしたの?」
喧嘩って言うより、決闘という表現が正しいような……。一応、闘技場の上で審判がいて、ギャラリーがいてってそんな状況で戦っている訳だから。
「相良について知っているんですか?」
「そりゃ、私をこの世界に封印した張本人だし」
封印? どういうことだ?
「私って天才だからさぁ、人間のフリして楽しく生活してただけなのに……。もう少しで……支配出来たのになぁ」
この女は何を言っている? 脈絡がないからか、話の概要が掴めない。支配って何を支配するつもりなんだ? そもそも人間じゃないなら……こいつは一体何だ?
妖怪か、式神か。だったら始めから妖力の波長で確認出来たはずだ。何も感じなかったから死んでいるのか、もしくは何の力も持っていない人間かと思ったんだ。
「じゃあ、あんたは一体……」
「ん~? 私はねぇ~」
奴はその場で来ている服を靡かせつつ一回転した。そしてまるで決めポーズでもしているかのように、両手をピストルの構えを作り、蔓延の笑みでこう言った。
「あくりょ~です!!」