途方
絶対絶命だ、どうやったって避けられない。
「反則だ、こんなのってあるかよ」
目玉がついに攻撃にうつった、試合開始時での拡散弾と同じように目玉は眼球の先に妖力の塊を出現させた。全ての目玉が一斉に、俺を囲んでどこに逃げても射止められるように。
「ぐっ、ちくしょう」
刹那、俺は思った。奴はこの現象を鬼神スキル『畳返』と呼んだ。この空間だが、どうも始めから違和感を感じる。二体目の式神として蚊帳吊り狸を保持しており、狸が奥義を発動させているなら理屈は着く。同じ妖力でコーティングしてある目目連が侵入していても納得がいく。
だが、奴は鬼神スキルとして自分自身で発動させてきた。
「行弓ちゃん!!」
考える事に集中していた俺は、思考が目の前の事に戻った。そして一つのこの空間からの脱出方法を思いついて。
「火車、逃げるぞ!!」
「えっ、どうやって……」
どうやって? 俺は持っていたではないか、戦闘でぎりぎり命からがら逃げ出せるように開発された鬼神スキルを。この場合はまさに理想の場だ。閉じ込められた空間から脱出する方法など……瞬間移動に決まっている。
「鬼神スキル『鋸貝』!!」
一瞬でその場からワープした俺は、別の障子だらけの部屋に移動していた。鋸貝は本人の意思とは関係なく、問答無用で瞬間移動する技だ。故にランダム性があり確実性に欠けるが、技の発動のスピードがとても速く、相手の不意を着けることから俺としては優秀な能力だ。まあ俺の妖力が十分ではなく、距離を稼げない為に本来の用途である戦闘事態の脱出には使えないのだが。
「とにかく、追っ手からは逃げ切ったが……まだ障子の中だよな。この空間そのものから逃げ切ればいいってのは虫が良すぎたか」
このままじゃまた奴に発見されるのは時間の問題だ。あと何回か鋸貝を連発すれば逃げ出せるかなぁ。あと先考えずに妖力を消費したくないのだが。
「行弓ちゃん、外はどうなっているんだろうね」
「俺が知りてぇよ。相良の野郎、俺が一人で頑張っている時に自分は安全地帯で高見の見物だろうな。全く正々堂々戦えよ、これじゃあ誰と戦っているか分からないじゃねーか」
文句を言ったところで何も変わらない。とにかく動き始めるか。そう思って、もう一回目の前の途方もない障子を開いてみた。
「おぉ、何だこの部屋」
いつもの障子だけの光景ではなくなっていた。驚いたのは言うまでも無い。別に外の空間に戻ってこれた訳ではないと思う、一応まだ障子に囲まれている状態なのは確かだ。
だが、この部屋だけはまるで他とは異なる。まず空間の大きさが比べ物にならない、十倍くらいあるにではないか、そして何より部屋の中央に物が置いてある。
真っ赤な鮮血で染まった……死体。