火蓋
「それでは双方構えて、試合を開始します」
色々、思い残す事は多いが取り敢えずは目の前の敵に集中しよう。あの渡島とかいう理事長はともかく、相良も紛れも無く強敵なのだから。
「試合開始!!」
その大声と共に戦場の火蓋は切って落とされた。
俺に表立った作戦などはない、強いて言うならまずは火車を車輪モードにして逃げ回り、奴の出方を伺う事だ。奴の力を知らない以上は、揺さぶって炙り出すしかない。
「火車、いつも通りだ。車輪モード!!」
「了解!!」
俺はお札から素早く火車を召喚すると、始めからバイクの姿だったのですぐに乗り込み、奴に背を向け後方へと逃げた。まずは距離を取る、近距離の攻撃は避けられなくても、遠距離の攻撃なら避けられる。
振り返って見てみると、相良は一向に動いていない。余裕ぶっているのか、それとも何かを狙っているのか。
「火車か、理事長の話ではそんな奴がいるとは聞いてなかったな。しかも随分と変形しているし。まあいいや、橇引……その位置がお前の戦いやすい間合いでいいんだな」
……間合い? 俺をワザと闘いやすい位置に逃がしたというのか。
「そんな苦しそうな顔をするなよ。寧ろ俺としては大助かりなんだから。実は俺も……」
一瞬だった、相良は何一つアクションを起こしていないのに、相良の背後から目目連の胴体とも言うべき障子が姿を現した。気が付かなかった、俺が奴から目を離した隙にあれを用意したのだろう。
「俺は遠距離が得意なんだ」
別に俺はお前と違って遠距離が主流な訳じゃない……とか思う暇すらなかった。障子の一つ一つに目玉が現れ、そこから……黒い妖力の塊が出た。
「さーて、まずは入学祝いをくれてやる」
あの塊みたいな物、見たことがある。忘れはしない、あれは松林が前身にがしゃどくろを纏った時に使用した妖力の砲弾。あの時に俺は手も足も出ずに地面に叩き落とされた。あの攻撃は間違いなくあの時と変わらない。
「発射!!」
合計三十発以上の砲弾が一直線に俺を目掛けて飛んでくる。なるほど、あの目目連の全身の目玉には、こんな使い方があったのか。
だが……松林との再戦を検討し、その技はしっかり対策を練ってある。
あの時の俺は回避ばかりに意識が飛んでいた、自分の妖力が足らないことから、純粋なパワー勝負では勝ち目は無いと踏んでいたからだ。状況は変わった、今の俺には烏天狗がいる。お札の中からでもある程度の妖力を供給してくれる。確かに長時間の体の保存は出来ない、だらだらと垂れ流してしまうだけだ。でも瞬間的に爆発させることなら……可能だ!!
俺は素早く用意していたお札を二枚、ポケットから取り出す。新たな火車を出すと、バイクの奴を合わせて合計三体で妖力を混同させる。この間のいつもの光が相良と目目連の視界を遮った。
「何をしやがった」
砲撃は俺達に直撃したあと、跡形も無く煙となって消えた。ヒットはしたのであるが、ダメージにはさほどなっていない。それもそのはず。俺は火車三体を使って新たな変身をしていたのだから。屈めていた体を起こし、正面にいる相良に言う。
「火車、モード『障壁』」