新機関
「私はあなたに正しくあれ、と言っています」
「お前は俺のお母さんか、なにが正しくあれだよ。俺より年下の女の子に言われることじゃねーよ」
つまるところあれか、陰陽師の機関に戻り、だらだらと雑務を片付ける仕事を一日中して、正しくあるために意味もなく正しくある為だけに、妖怪を道具として使う連中を敬いつつ、そして自分は妖怪達を労えと。なんだその負け犬人生。あの生活が戻ってくるなんて、絶対に嫌だ。影で馬鹿にされようと、敵前逃亡と罵られても、嫌なことは嫌なんだ。
「正しい人間であれ、なんてお前から命令される筋合いはないぜ。俺はお前達陰陽師を否定しないから、その代わり、俺のこれからの人生も否定しないでくれ」
「そんな自分勝手な裏切り者を野放しにしておくほど、私は先代と違って優しい陰陽師ではないんです。大いに否定します、この大馬鹿者。お前に陰陽師を名乗る資格などない」
名乗ってねーよ、どんな場所でも特に何もしない陰陽師ですってちゃんと修飾語を入れているよ。
冗談はさておき、何なんだこの自称二代目振払追継さんは。俺を陰陽師に勧誘しに来たってところなんだろうが、御上や他の幹部連中からも復帰しろなんて報告は受けてないぞ。まさかこいつの独断なのか。ちゃんと許可を貰ってこの町に来たのかすらかなり疑問である。
だいたい俺なんかを仲間に誘って何の旨味があるというのだ。元いた流派では、足手まといの雑務専用スタッフだったんだぞ、俺。もっと腕の立つ抜け忍ならぬ抜け陰陽師もいるだろう。それほどこいつの地元はピンチな状態ってことか。ならなおさら、俺ではない誰かに救援を求めるべきである。
「おい、お前の地元の流派が人手が足りないなら、俺の知り合いの偉い人に相談してやろうか? 妖怪トラブルならともかく、陰陽師のトラブルなら誰よりも頼りになる男だ」
「私はどの流派にも属していませんよ」
「何っ、先代と同じ場所じゃないのか」
「私も一か月前まではそう確信していたのですが。今度、新しく出来る陰陽師の機関がありまして。そこの第一期、の人間になることになりました。名前を百鬼夜行」
「なんだそのよく聞くネーミングは。つーか、あれ別名妖怪大行進だろ。式神を従える気あるのかよ」
「ありません。つまり過去に貴方の掲げた理想の旗を同じく掲げる陰陽師の機関です」