興冷め
会場は異様と呼べるまでの凄まじい熱気に包まれていた。別に歓声が飛び交っている訳ではない、遊びで集まっている連中なんてごく少数だろう。どいつもこいつも目的はただの試合観戦ではなく、捕獲不能レベルの妖怪同士の戦闘光景の観察だろう。難儀なやつらだ。
「でさぁ、何でお前らはそこにいる訳なんだ」
「応援だよ、行弓君。今日は僕も都合が合ったからね」
という訳で、百鬼夜行の面子も何故かその場に勢ぞろいしていた……わけではない。事の発端と言うべき松林の馬鹿と全身蕁麻疹で自宅療養中の鶴見もいない。あと、五百機さんも仕事の関係で来れなかったらしい。つまり残りの半分はこの場にいるという訳である。
「リーダー、やっぱりあの男は面倒な事をさらに面倒にしてきましたね」
「まあ話をややこしくする天才だから。派手なのとか、燃える展開とかそんなのが好きなんだよ、あの男は」
追継とリーダーの会話が聞こえている。
「そういえば追継のお父さんなんだよな、理事長って。やっぱりリーダーも知り合いなのかよ、その理事長さんと」
「黙れ」
……え?
今リーダーなんて言った?
物凄い美しい笑顔でなんて言った?
「僕の前であの男について一言も聞かないでくれ。僕はあの男が大っ嫌いなんだ、誰とだろうと僕はあの男について語り合いたくないんだ」
……さっき、追継とは話合ってったじゃん。
まあいいや、自分の事に集中しよう。
火車はともかくとして、烏天狗の方のやる気としてはどうなのだろうか。先ほどから火車とのこれからの戦闘への作戦会議のような物をしているのだが、奴は一向に念力を送って来ない。まさか戦闘理由がアホらしすぎて興冷めしてしまったのだろうか。
「おい、烏天狗。まあやる気が出ないのは分かるけどさぁ。相手が相手だから力を貸して欲しいんだけど」
……やはり返事がない。目目連に習って沈黙作戦を学んでしまったのだろうか。もう試合開始時間めで時間が無い、いい加減に返事をして欲しいのだが。
「おい、頼むから何か言ってくれよ。今回の相手が本当にマズイってのはお前の方が分かるだろ。これからそんな奴と戦うんだ、イジケテないで作戦会議に参加してくれよ」
ようやく声を……発した。
「作戦か、そうじゃな。今すぐ逃げろ」
「おいおい、逃げろってさぁ。そりゃ俺だって正面から戦うつもりなんてさらさらないけど、今すぐってのは何だよ。火車をバイクに変形して、まずはスピードで奴を攪乱するって寸法じゃないのかよ」
「違う、今すぐ逃げろ。今すぐだ!!」
烏天狗がこんな焦った声を発したことは初めてだ。まるで怯えている、震えている。対戦相手にか……目目連はそんなに強い妖怪なのか。いや、烏天狗だって捕獲不能レベル……大きな差があるとは思えない。じゃあ対戦相手の相良の脅威か。いやでも、始めて相良に合った時には、こんな反応はしてなかった。
「おい、烏天狗!!」
「行弓、お前は知らない方が良い。いや気付かない方が良い。今、ワシの中で全てが繋がった。この場に……奴が来る」