不明
さてさて、橇引行弓は百鬼夜行のリーダーの命令によりとあるスカウト任務を承った。その過程で……まあ首尾よく話が進み、ターゲットであった目目連の陰陽師である相良と決闘を申し込むことになった。
だが、一見なにもかも上手く行っているように見えるかもしれないが、問題は山積みだ。俺が相良を倒さなければならないということなのである。取り敢えず百鬼夜行からの対戦相手が俺であることがまず納得いかないのだが、今さら何を言ってもどうしようもない気がするので、ここは諦める。
次なる問題は……観客席だ。
「何なんだよ!! この夥しい人数は!!」
対戦の取り仕切りを学校側に任されてしまったことである。俺も追継もそんなこと望んではいなかったのだが、ここは学校内ということで姿を見せない理事長とやらに指揮権を奪われた。まず、対戦日、対戦場所、試合形式、審判、来場の皆様など何もかも設定しやがった。
場所は緑画高校の裏側にある霊界の世界に設置された対戦上、まるで闘技場のようになっている。特に障害物が設置されている訳ではない、気になると言えばあらゆる場所に蝋燭がワザとらしく設置されていることだ。本来薄暗い霊界もかなり眩く感じる。
観客がウットオシイというのは、この学校のほとんどの生徒が制服姿でこの試合会場に集結していることである。相良が話していた、学生同士で設立した機関という物の存在がここではっきりと分かる。皆で同じバンダナを付けて正座している集団。異様な音を鳴らす緑色の機械を持ち出して、それをパソコンに接続し、いかにもデータを取集してやると言わんばかりにこちらをみている眼鏡を掛けた白衣の集団。巫女服をきている生徒や古今東西の妖怪も多数見られる。
「悪いな、橇引行弓。こんな回りくどい事になっちまってよ。俺も戦闘は静かに一人でしたい性分なんだが」
「我が儘を言っているのは俺達だ。郷に入れば郷に従うさ」
何故このような人数が集まったかというと、俺達の決闘を学校発展のセレモニーにしようと、理事長とやらが今週の土曜日にという話にしやがったのである。ご丁寧に『百鬼夜行の転校生VS緑画学園の裏ボス!! 捕獲不能レベルの妖怪同士の熱いバトルを見逃すな!!』みたいな広告までばら撒きやがった。そりゃこうなるよ。
「つーか、裏ボスだったんだな、あいつ」
あとでうちのクラスの人に聞いたが、追継が右ストレートをするまで本当に目目連の使い手が誰なのか不明だったらしい。
「なんで俺みたいなヘナチョコがあんな奴と」
そして俺の身に降りかかっている一番重大な問題は……俺の式神達だ。
「行弓ちゃん……」
「火車、本当に今回ばかりは悪いと思っている」
「いや、主が心より魂を掛けて戦うというのなら、私は甘んじて共に戦おう。でも……行弓ちゃん……今回はそんなにモチベーションが上がってないでしょ」
その通りだ、今の俺の中には気合いなんて物は微塵もない。鶴見と交戦した時の使命感や、松林と交戦した時の闘争心は俺の中には無いのだ。
「そんな状態で……ただでさえ弱い行弓ちゃんが、真面目に戦えるとは思えない。お札の中からでも分かる、相手はかなりの妖力を持っている。陰陽師としての知識もありそうだし、何しろ相手は目目連。文献が少なくて動きが全く予想出来ない」
各地方に眠っている逸話や伝説など、妖怪にはある程度闘い方というものがある。それをヒントに撃退の糸口になるのは珍しくない。だが……俺も目目連なんて名前しか知らなかったくらいだ。
その目目連だが、今この会場に来ている。なんと眼球の状態で相良の袖の所に引っ付いているのだ。ギロっとこっちを睨んでいるように見える、まだ目潰しが許せないのだろうか。
「四の五の言っても仕方ねーよ。やる気がないってのは違うぜ。俺はもう面倒事から逃げないって決めたからな、今の俺のすべき事がこいつと戦う事だっていうなら、俺は全力でぶつかるだけさ」