一層
陰陽師じゃないと言われても、式神がいて、妖力を持っていて、この学校に通っている生徒である時点で、陰陽師な事は確定していると思うのだが。
「相良さんとおっしゃいましたか。私達のスカウトを断りたいという気持ちは分かりました。ですが私達は、どうしてもあなたが陰陽師ではないという理由が分かりません。説明して頂けるでしょうか」
相良は号泣ではなくなったものの、まだすすり泣いている目目連を放っておいて自分の席に行くと、椅子の向きを引っ繰り返し足を組んで座った。
「この学校は正確な陰陽師としての機関設定がなされていない。だが、この学校の連中は自意識で自分達が陰陽師だと思っている。俺達の上級生は理事長からの条件を満たしたチームが、学校内部で独立して機関のように名を名乗り活動を始めている奴等もいる」
確かにこの学校の生徒は、自分達の事を陰陽師だと思っていた。俺が自己紹介の時に、陰陽師を指名したら全員が手をあげたのだから。
だが、こいつら全員が正式に本部を通して陰陽師になっているだろうか。その答えは間違いなくノーだ、こいつらはただ勝手に自分達を陰陽師だと思っているだけだ。まるで機関を脱退されたあとでも、俺が『特に何もしない陰陽師』と言って陰陽師を名乗っていたように。
「その、新しく機関を立ち上げている連中はいったいどんな活動をしているんだよ。そこまで知っているんだろ」
相良は何の躊躇いもなく、親切にも答えてくれた。
「あぁ。奴らは世直し活動をしているんだとよ。老害を蹴散らしているってことだ。強力な妖怪を手に入れる、もしくは妖怪と友好的な関係を築き、より一層深みのある戦い方をする、そうやって奴らは本物の陰陽師を襲っているんだ」
……何だと、そんな馬鹿な。確かにあの変態的元教育係、松林力也とそこまで乗り気には見えなかったダモンの二人だけで、全国の陰陽師を片っ端から相手にしているというのは、無理があるのではないかと、少し疑問に思っていた。まさかそんな連中もいたなんて。
「皮肉だろ、一千年間の実績がこうも容易くぶっ壊れるんだぜ。お前は知らないようだから教えといてやる。この世界には二種類の陰陽師が存在する。妖怪を奴隷として戦う旧陰陽師、それとこの学校の生徒及び百鬼夜行のメンツの新陰陽師。これが現実だ」
……そんな……。俺は昔の笠松の機関にいた頃に、自分は陰陽師としては孤独だと思っていた。そして自分の弱さはこの逸脱した発想からだと思っていた。だが、妖怪に非道な態度を取るくらいなら弱いままでいいと妥協した。
だが、この学校は……その俺の弱さを、旧時代との隔てる力の差にしている。意味が分からない、今まで積み上げてきた歴史は何だったのだ。俺の正式な陰陽師だった時間は何だったというのだ。
「だから俺は……、陰陽師になんかなりたくない。知らねぇ誰かを傷つける勇気はない。たまたま目目連と気が合って、この学校に入学できたまではいいものの、どんな妖怪も愛せる自信もない。自分が救世主だなんて思ってない、俺はその辺のちょっと変わった普通の高校生なんだよ」
こいつ……思ったより自分の事を理解してないな。お前は誰がどう見ても不良だよ。全然普通の人間じゃねーよ。
「だからさ、陰陽師を名乗る為にはそんな事をしなきゃいけないなら……俺は自分が陰陽師じゃなくてもいいと思っているんだ」