号泣
先ほどまではおそらく我慢していただけだったのだろう。ようやく目目連は普通に視認できる形で、反応を表した。
「ううう、痛いです。主の命令を受けただ黙って遠方より主を見守っていただけなのに、何故このような暴力を受けねばならないのでしょうか。あなた方は私の主に憤りを感じてらっしゃるのですか?」
いやぁ、無視されたのが気に食わなかったからとは、非常に言いづらい。こいつとしては、ただ使い手の陰陽師の命令を忠実に従っていたに過ぎなかったのだろう。殴ったのは追継だけどな。
「だってお兄さんが攻撃しろって、言ったから」
「違う!! 俺は触ってみろって、言っただけだろ」
目目連の流す涙の量が増えてきた、まるで漫画のように蛇口の水道をひねったかの如く、だらだらと涙が黒板を伝わって床に滴る。よほど痛かったのだろうな。
「主様、私をお助け下さい。これ以上は耐えらませぬゆえ、救援を懇願いたしまする」
まるで子供のように泣きじゃくり、痛みを紛らわすかの如く声をあげる。どうやら助けを呼んでいるかのようにも聞こえるが、それらしき人物は現れない。
「なんか主とやらが現れてくれることを期待したんだが、来ないな」
「まあ捕獲不能レベルの妖怪の陰陽師が、必ずしも義理と人情に熱い人間ではないことははっきりしていますから」
それは同感だ、百鬼夜行の面子なんて変人だらけだからな。ただのお利口さんが捕獲不能レベルの妖怪を手に入れられる訳ではないのだ。だからこそ、こいつの使い手もとても変人だと踏まえて、考えておかなければ。
丁度、そんな感じで場の空気が固まったしまった時だった。教室に轟音が響き、その場にいた全員が目目連からそちらの方に視線を移す。
轟音の正体は奴が教室の扉を勢いよく開いた音だった。この光景は俺にとってはデジャブである。中に入ってきたのは、遅刻してきたのはあの目付きの悪い不良少年。
「相良………」
「……俺に何かようか?」