直感
「……あのさぁ、橇引行弓君だよね」
真っ先に目目連に向かって行った追継の後を追い掛けようとした俺であったが、教室に残っていたクラスの女子に引き留められた。
「どうして理事長の娘さんと一緒にいるの?」
「えっ、お前達は振払追継について知っているのか」
あいつ、そんなに頻繁にこの高校に出入りしているのか。もう学校の生徒から認知されているじゃねーか。
「私、初めて見たよ。それがね、うちの理事長は始業式や終業式をするたびに、スクリーンを使かって自分の娘の成長日記を力説するんだ。一時間くらい……」
もの凄い迷惑だ、世の中にそんな阿呆が存在しようとは。よくもまあリストラされずに四年間も耐えているなぁ。
「何で誰も抗議しないんだ?」
「さぁ、この学校の理事長があの人しか勤まらないからじゃないかな。まあ三十分間どうでもいい話されるよりも、一時間面白い話して貰える方がマシって人がいるからとか」
そういうものか? 俺は一分一秒でも早く帰りたいから、例え面白かろうとどうでもいい話なんてして欲しくないけどな。
「お兄さん、ちょっと来てください」
「あっ、はいはい。ごめんそれじゃ」
自分が任務の真っ最中だったことを思い出して、直ぐに駆け寄った。追継は少し不満そうな顔をしている、さっきの俺達の会話が聞こえていたのだろう。そりゃ恥ずかしいよな、自分が誰とも知らない大人数の人に一時間近くかけて、こってり説明されているのだから。この場に来れたのも固い決心の上だったのだろう、自分の心を犠牲にしても任務を優先する、やはりこいつは振払追継なのか。
「これが目目連ですか、データの姿と違いますね。言葉は発してはくれないのか」
「そうだな、俺も話しかけてはみたんだが、全く反応がないんだよ。ただ瞬きをして目玉がこっちを見るだけで、会話をしてくれないんだ。そもそも口がないって話なのかもしれないけど。これじゃあ使い手を聞き出すなんてどころじゃねーよ」
こいつは俺が学校にいた時間の全てを、黒板の中心で過ごしたのだ、一歩も動かずに、ただただ目玉がキョロキョロ動いていただけだ。
「何か感じとったことなどはありますか?」
「そうだなぁ、何と言うか……。ただ居座っているって感じじゃなくて、まるでこのクラスを守っているみたいな感じがしたっていうか。ただの直感だけど」
「守る……ですか」
海坊主にしても烏天狗にしても、俺達の事を嫌がってはいたが、無視をしてはいなかった。ちゃんと話せば言葉を交わしてくれた。だがこいつは、無言でアクションすら起こしてくれない。