正義
どうどうと言えることじゃないが、俺は式神から妖力供給なんてしていない。する気もない。
しかし俺のような仕事をボイコットした陰陽師でもない限り、妖力供給はかなり重要な仕事の一つである。完全に言い訳なのだが、この前の悪霊巨大化事件だって、供給するどころか、自分の妖力を火車に分け与え、俺の体の中の妖力がほぼなかったから、お札を固めて作ったあの剣がまるで通用しなかった真の理由である。勿論、妖怪とがんがん契約して、妖力を奪いまくれば、最強になれるという訳ではない。ある程度、保存出来る妖力に個人差があり、相性もある。だから、それ程陰陽師にとって式神契約は重要なのだ。
「俺はな、もう戦う戦士じゃないんだ、追継。ただの、人間なんだ。そう先代にも説明したし、納得して貰ったはずなんだが」
「ええ。貴方は絶望的なまでに、陰陽師に向いた性格ではありません。式神とは操る物。その精神は数年来、世代を超えるごとに受け継いできました。我々は人々を守る為の機関です。しかし、正義の味方ではあってはならないのです。妖怪とは悪、式神はその残像です。我々は一寸先の悪しき物を利用してお勤めをします。そんな物を利用し扱う人間が、どうして完璧なる正義でしょうか。我々も同じくらい闇の中の住民です」
妖怪は悪かどうかなんて、その妖怪次第で、その妖怪を悪かどうか判断するのは、その人間次第なのではないか、というのが俺の見解なのだが。あの頃から誰も理解してくれなかったが。
「貴方のしてきた行いも正しいなんて思ってません。力が無く戦場に赴かない、悪いものを悪いと理解しようとしない、挙句の果てに敵前逃亡。貴方は最低です。何もしない事だって立派な罪じゃないですか」
今の追継の発言を否定するつもりはない。おっしゃる通りだ。特に何もしない陰陽師なんて最低、そりゃそうだろうよ。確かに俺は機関から必要ないと言われた。消えろ、とまで言われた。しかし、石にしがみ付いてでも、たった一人で妖怪を擁護しようとした訳じゃない。言われた通りいなくなった。分かりました、と一言だけ言って、自分の式神を他人に預け、さっさと逃げ出した。これを敵前逃亡以外の何物でもない。
俺が正しい? そんな訳ないだろ。
「そんな言葉を俺にぶつける為に、わざわざこんな場所まで来たのか」
追継はゆっくりと首を横に振った。