日常
そして、今の俺の日常___。
俺の自宅の二階の端。俺の部屋。パソコン、ベッド、勉強机などなど。ありふれた日常品しかなく解放感に溢れた特に特徴もない面白みゼロの俺の聖域に今日もまた変な事件が舞い込んだ。
「行弓ちゃん、行弓ちゃん。ひどいんだよ、機関の奴ら」
そう泣きながら訴えてくるのは妖怪[火車]、般若や鬼の顔をした体中が燃えている車輪の妖怪である。とりあえず、その全身に火を纏いながら俺の部屋で暴れるな、火事になる。
「この前、御上の家の一人娘が小学校に入ったじゃん」
「そうだったな」
「そしたらね、御上が僕達を娘の自転車にしようと企んでいるんだよ」
「いや無理だろ、いろいろな理由から」
「だけど,あのわがまま娘が言うことを聞かないんだよ。御上は娘にぞっこんだし」
相変わらず御上は妖怪のことを道具としか思ってないらしい、流石だ。
「助けて、行弓ちゃん。もう頼れるのは君だけなんだよ~」
「いや、御上は基本的に俺の話も聞かないし」
「違うよ、娘のほうを説得して欲しいんだよ」
「それも叶わぬ夢だ」
あの娘は自分以外の全てを玩具としか考えていない。勿論、俺も玩具だ。あいつに何回サンドバックごっこの的にさせられたことか。じゃあお前が自転車になれと言われるのがオチである。むろん、嫌である。
「ここは発想の転換だ、考えてみろ。幼女の土台になれるんだ。嬉しいだろう」
「じゃあ行弓ちゃんなら嬉しい?」
嬉しい訳がない。お断りに決まっている。
「諦めろ、それしかない」
「そんなぁ~、オーマイガット~」
火車。生前に悪事をした亡者の魂を乗せて地獄へ送るという役目を持っている。俺としてはよく見かける奴で数はかなりいるようだ。まあ、人間の悪人の数を考えれば一匹で足りるはずもないか。昔は自らの火で家を燃やし、悪人を強制的に地獄へ連れて行ったりしていたらしい。そんな全国でも名高い大妖怪が今じゃたかが小学生の登下校の自転車とは。なんか複雑な気分である。
「しゃーない、御上の家に行って話をしてみるよ、無駄だとは思うが」
「ありがとう、行弓ちゃん」
ふと思った。妖怪達と友達という関係である俺も極めて異質か。
「昼間だし、人間擬態能力は持ってなかったよな。このお札の中に入ってくれ」
「いや出来るけども行弓ちゃん、人間の姿でも体中の火が消えなくて」
服が焼けるのも大変だが、全身が業火に包まれている姿で外を歩かせる訳にはいかない。幽霊や妖怪は通常、見えないものとして認識されているが、間違っている。化けて分からなかったり、人間に擬態していたり、他の物体に取り付いていたり、俺たちのような陰陽師が隠したりしているだけで、誰にでも見えるのだ。
火車はすんなりとお札の中に入ってくれた。
「行きますか―」
「おぉー」
こうして今日も俺の陰陽師らしからぬ妖怪との触れ合いが始まる。