慈悲
「七不思議なる大層なものはありません。ですが、何も面白い点が無い学校とも言えませんよ。まあ簡単に言いますと、捕獲不能レベルの妖怪がいる学校です」
……馬鹿な。
確かに妖怪という生き物は人間の子供が大好きである。それ以前に妖怪は人間のいる場所にしか集まらない。この習性を考えるならば学校なんて場所は、よっぽど妖怪が現れやすい場所のように感じるかもしれない。だが、そんな大人数の人間がいる場所にいる妖怪は少ないのが現状だ。
理由は簡単、陰陽師が怖いから。一般人と騒動でも起こしてみろ、永久封印とか割と冗談じゃない。何度も言うようだが俺達のような変人集団でもなければ、陰陽師は妖怪に対し慈悲の精神なんぞ持ち合わせてはいないのだ。
「えっと、そいつを捕まえに行くと」
「いえ、状況はもっと奇妙です。ただ捕獲不能レベルの妖怪を捕獲しに行くなら、好都合なのですが……なんと……所有者が既に存在しまして」
「俺達みたいな捕獲不能レベルの妖怪を捕獲出来た陰陽師がいるって言うのかよ。随分と勇気がある奴だな。じゃあそいつは学生だって言うのかよ」
始めはびっくりしたが、よくよく考えてみると……俺も小学生の時点で烏天狗を形だけは式神にしているので、妖怪との契約する技術に年齢は関係ないのかもって自分を見て思った。
「まーいいや。その妖怪とやらの正体を聞こうか。やっぱり事前に知っておいた方がいいだろう」
「それはいいですが、お兄さんはあまり知らない方がいいと思いますよ。結構あれでも怖いタイプの妖怪ですから。お兄さんがこれを聞いて絶望して、学校に行きたくないと泣き言を言われたら強制連行になります」
どの道、俺は連れて行かれるんじゃねーか。
「私はお兄さんの尊厳とプライドを守る為に優しさで黙ってあげているのに、騙されてついて行った方が、身の為ならぬ心の為ですよ」
俺って追継からそんなに臆病者だと思われているのか。まあ確かに、元気の良い若者だとは言い難いだろうけども。
「つーか、鶴見。お前は何でさっきから黙っている訳だ?」
「いや、学校に行くときくらいは、この呪縛から解いてはくれないかなぁ。私も学校に行きたいって気持ちはあったから、嬉しいのはそうなのだけれど……、この格好のままじゃいろいろとマズイでしょ」
「あぁ、それならリーダーから『そのまま頑張れ』ってエールが届いているよ」
頑張ってどうにかできる問題じゃないと思うのだが、いいや。こいつにとっては当然の報いだ。
「まあいいや、妖怪については現地に行ってからでも教えてくれ。じゃあ学校に行く用意でもしますか」