敵陣
学校に行く。それはどういう意味だろうか、まさか俺がこの近くの学校に転校するという話なのだろうか。それとも学校に悪霊が逃げ込んで、それを捉えに行くということだろうか。
「それはどういう内容なんだ」
振払追継は俺のパソコン使用時に使う回転する椅子に座ると、ゆっくりした口調で話始めた。
「はい、詳しく説明します。ようやく笠松陰陽師機関との交渉が完了して、記憶制御によって橇引行弓と鶴見牡丹の設定を学校から抹消する事に決定しました。つまり元よりお兄さんはあの学校の生徒ではなくなるということです。陰陽師関係者以外の人間は行弓君の記憶を全て失うということです」
確かに鬼神スキルを使用すれば可能だろう。いつまでも行方不明のままじゃ、何かと面倒なのも分かる。気に入らないとすれば、そんな大事な話を解決した後に報告されたことだろうか。
「俺もいつまでもこのままじゃいけないとは思っていたから、文句を言うつもりはない。保護されている身だしな、それが上官の命令だっていうなら、喜んで『いなくなった奴』になる。ただ、俺の両親には何て説明するんだ。流石に両親は、始めからいなかったことには出来ないだろ」
記憶から排除する事自体は成功するだろうが、家の中の俺の部屋だの俺の家具だの、思い出を復活させる起爆剤が多すぎる。記憶削除は完璧でなくてはならない、もし何かの拍子に記憶が戻れば、本当に洒落にならない。もし両親が俺の事を思い出し、捜索を始めたら、おれは陰陽師側が関係のない一般人を巻き込んだとして条例違反となる。『記憶を消す』という事は作業こそ簡単であれ、不始末が無いように完全性を求められるが故に下準備が大事なのだ。
丁度この前、機関を抜ける際に発動した松林の記憶抹消が、俺が本人に出会うことによって、彼との記憶を思い出した事があった。あれが良い例だ、あんなことがあってはならないのである。
「お兄さんの保護者には、遠くの高校の為に寮暮らしという設定で通すそうです。その辺の心配がないように、しっかり調整してくれてますよ」
……それで俺は後戻りが出来なくなった。俺は笠松陰陽師機関から『百鬼夜行』のメンバーだと思われるのだ。今の時点で俺の地元は、敵陣になってしまったということである。
「お兄さん、それで学校の事についてなのですが」
「あぁ、そうだな。俺達がただ学校に行く訳じゃなくて、学生として通学するこてゃ分かったけど……何をする為に行くんだ? 何か理由があって行く訳だろ。その学校にはどんな七不思議がある訳なんだ?」