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贈り物

 晴菜なきょとんとした顔をして、首を傾げた。さぞかし理解出来ないといった顔をして。


 「何で?」


 「その方があなたにとって幸せだからです。悪霊の姿では陰陽師に追われる身となります。それでは、誰かと遊んだり、勉強したり、歩いたり出来ません。あなたへの普通の生活を望んでいるのです。母親として」


 さらにまた、分からないといった顔をした。


 「別にこの姿は不便じゃないよ。この悪霊としての能力が無くちゃ、お母さんを幸せに出来ないし。お母さんの不安に思う何かが現れた時に、排除できなくなっちゃうよ。まだ陰陽師機関も壊滅させてないし。私のことを心配してくれるのは嬉しいけど、私は陰陽師が何人やって来ようと負けないよ」


 そうだろう、第二世代型でさえ悪霊は複数の人員がいなくては、消滅させることは困難だ。まして自分以外の人間から、妖力を吸収しているならば、無限の力を手に入れたも同然だ。全国のどんな陰陽師が何人集まっても、倒せないだろう。方法としては、私が死ぬことしかない。今の状態で私が死んだら、別の悪霊をもう一体量産する破目になるだけだろうが。


 「でも私はあなたが悪霊なんて嫌です。可愛い我が子が誰かを傷つける姿なんて、誰かに傷つけられる姿なんて、見たくありません」


 「うん、分かった。じゃあお母さんのいない場所でやるよ」


 だからそういう問題じゃない。私はあなたと一緒に時を過ごしたいのだ。


 「私はあなたにこの世に存在して欲しいのです。悪霊なんて形じゃなくて。あなた個人としての、音無晴菜になって欲しいのです」


 「私は音無晴菜だよ。今もこれからも、この姿でも。お母さんがこの姿の私を認めてくれない気持ちはなんとなく分かるけど、別に私は悪霊の姿でなくなる理屈にはならないかな、私にはお母さんを幸せにするという崇高な目標があり、その夢を実現させる為には、この力は必須だから」


 私にとっての幸せは一体何なのだろうか、別に私は陰陽師機関の解体や仕事からの精神的な自由を求めている訳ではない、きっとこの気持ちは本心だ。


 私が不安なのではなく、この子が不安なのだ、きっと。


 「怖がらなくてもいいよ、私はあなたを守ります。あなたが私を守る必要なんてないです。あなたは守られる側の存在だから、まだ子供だから。あなたを守りきって見せます、必ず」


 「私よりお母さんは弱いのに?」


 「弱いですよ、私は。一人じゃ何も出来ない駄目な女です。いつもネガティブで、マイナス思考で、自虐的で、つい最近まで差別主義者で。でも弱いから、必死になれます、自分が完全に幸せじゃないからこそ、一番大切な人に幸せになって欲しいと心から思えます。私の幸せはあなたと会えることだけで十分です」


 「俺が支えるよ。だから俺が君のお母さんを守る、だからお母さんは一人じゃない。子供の間だけは自分が幸せになることだけを考えるんだ、君の崇高な目標は俺が責任を持って引き継ごう。俺はきっと君の父親になってみせるから」


 私は渡島さんの手の中から、お札を取ると娘に向かって歩き出した。


 「晴菜、幸せになって。私の一番の幸せはあなたが幸せになることだから」



          ★

 次回完結します

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