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視線

 「晴香さん、誤解を解こうと下手に動いても危険なだけです。こちらの声は全て、御上さん達には呻き声にしか聞こえていないんです。ここはいったん引きましょう。悪霊化を止める方法を知っています」


 確かにあの形相からみて、歩み寄ることは不可能だろう。今まで攻撃してこないのは、私達が二人いるからだ。悪霊と戦う場合にあたり悪霊が複数いた時は、たとえこちらが何人いても、戦ってはいけない掟となっている。一匹でさえ過酷な戦いを強いられる悪霊が、二体でも揃えば手が付けられないのだ。まあ悪霊の生態として、単独行動が基本であるから、複数いる場面に滅多に遭遇しないのだが。


 「そうですね、逃げましょうか。で、どうやって逃げるんです?」


 「はい。……全力で後方に走ります」


 脚力勝負か!! 

 確かに人気の多い場所に行けば、陰陽師としては最も困る状況に持ち込めるかもしれないが、それをやってしまったら私の陰陽師としてのプライドが……。


 「晴香さん、今の俺達は半悪霊なんです。陰陽師の姿に戻るまでは、どんな手を使ってでも逃げ切らなくては。行きますよ」


 渡島さんは私の腕を握ると、御上さんの小隊がいる逆方向へ駈け出した。すぐに全員で追跡を始めた仕事仲間達。今まで仲間だと思っていた方々に殺されようとされている状況が、堪らなく嫌だ。


 「あいつらは俺達が分裂して行動する瞬間を狙っています。晴香さん、絶対にこの手を離さないで下さい」


 話さないで下さいも何も、腕をがっちり痛いくらいに捕まれていて、逃げ出すなんて不可能なのだが。まあ、必死なのは分かるけど。


 「ちくしょう、お兄さん的にはお姫様だっこの方が」


 「いえ、このままでいいので早く逃げましょう」


 悪霊化したというのに、自分が悪霊としての能力を帯びているとは思えない。今まで通りの人間の限界のままだ。半悪霊化ということだから、完全に悪霊の力を手にしていては、逆に困るのだが。体力だの運動能力だの、もうちょっと向上してくれてもいいと思うのだが。そんなことは全然ない、私のどこが悪霊なのだろうか。それが分からない為に、人間に戻る方法が一体どんなことなのかも、想像がつかない。


 人払いの効果が切れたのだろうか。一般人の方が道路を歩いている。いつもの通りと変わらない風景だ。家があって、電柱があって、標識があって、人がいて。


 だが、感じなくなったことがある。視線だ。


 なんの確証がある訳でもないが、私や渡島さんがここを歩いている人たちに視認されていないのは、感覚で分かる。見えていないのだ。普通、いい年した男が女性の腕を掴んで全速力で走っていたら、目で追うくらいはするだろう。だが、そんなことは全く無い。目の前を横切っても、表情一つ変えないのだ。

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