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私がまだ幸せになっていない……確かにそうかもしれないが、それこそ測りようのない観念的な事象ではないか。状況や立場や関係によってどうとでも変わる。


 「言いたいことは分かりますが、あの子に私が幸せかどうかなんて分かる訳がないでしょう。……まさか、分かるんですか?」


 「そりゃ分かるでしょう。人の心から怨念を吸収出来て、知識や記憶も掘り起こせて、出入り自由なんです。晴香さんが今、『幸せ』になろうとしているだけで、幸せになっている訳ではないということは、あなたよりあの子の方が実は分かっているんです。数値化とまではいかないものの、本人ですら見えないくっきりとした感情をあの子は目の当たりのしているのですから」


 自分で自分の気持ちが分からないということは、よく聞く話だ。それが原因で表もいないようなことを口走ったり、思っていることとは逆のことを言ってしまったりすることも。そんな人間の精神状態という絶対に数値化出来ない代物を、あの子は手に取るように把握できるということになる。


 「あの子がこんなことをしたのも、本人は残された力を発散したとか最もらしいことを言っていましたが、俺はそれが真実だとは思いません。晴香さんが自分自身の力で幸せになろうとした。自分の力で未来を切り開こうとした。だからあの子は錯乱したんです。不幸な運命に流されるだけだった晴香さんの心が、前向きに生きようとしたから、自分の存在が存在しないなにかではなく、確かなものになってしまう。だから、動揺してこんな行動を取ったんです」


 そうか、私は陰陽師機関の消滅を本物の幸せと考えているなどということはなかったのか。ただ、私が前向きになったことに動揺しただけだったのか。これは一安心していいだろう、事件は解決方向に向かっている。


 「それなのに、なぜ渡島さんはあの子を保護しようとしているんですか。能力的にも観念的にも弱っているんでしょう。このまま安心させて、未来に送り返した方がいいじゃないですか」


 そこがよく分からない。なぜ問題無く思惑通り回復方向に向かっている現状から、撤退するような案を出すのだろうか。


 「理由は二つです。あの子は俺達の家族だから。もう一つは予期せぬトラブルでタイムリミットが予定より大幅に早く切れてしまったから」


 「家族って何ですか。私はあの子をいずれ産みます。それで何が問題あるというのですか?」


 「…………いや、分かったんですよ。隠していたこととも言えるかな。俺は晴香さんに嘘をついていました。あの子は間違いなく俺の子でもあるんです。……あの子は始めに晴香さんじゃなくて、俺に憑りついていたんです」


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