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虐待

あの娘は私の目の前に瞬間移動した。瓦礫の中から一気に私のいる芝生の場所まで。まるで脅迫をしているような笑顔。私が幸せになった今、この子も必死なのだろう。ただでさえたくわえがなくなったのだから。


 倒すなら今がチャンスである。


 「私は幸せになりました。今の自分に妥協なんて一切していません。私は自分で幸せを築くのです。あなたに左右はされません」


 お札から妖刀『下切雀』を取り出した。ここで仕留める。この子をこの世に存在しない何かに戻す。私はもう幸せになった、だからここでこの悪霊に負ける道理は無い。


 「おかあ……さん?」


 「えぇ、そうです。だから私はあなたを『この世に存在しない何か』になってしない。きっとあなたを存在させてみせる。あなたを倒し、私が幸せになることを証明します」


 これは決意だ、運命に抗う為の儀式への。


 「あなたに私を幸せを決めさせない。私の幸せは私が決める」


 目の前にいる娘に対し、私は下切雀を振り降ろした。この前の山の時のように、防御はなかった……。だが皮膚に直撃したのにも係らず、全く切れないというか、剣が静止して斬撃による衝撃が発散してしまった。


 「なにっ」


 「嫌ね、お母さん。娘に剣を振りかざすなんてどんな児童虐待だよって話だよ。まあ痛くないけどさぁ、その程度の妖力も込めていないただの人間相手の殺害方法じゃ。でも……心はばっくり切れたかな」


 心……? 三次元物質でもなく、他の生き物の感情なんて観念的な代物に寄生している悪霊に……あるのか? 心という物が。


 「ありますよ、心くらい。例え人の心の中に侵入して生きているような悪霊にも、存在するんだよ、心が。だって私達のような悪霊という存在は、前世の怨念だの恨みだの、妬みだの、そんな肥大した劇情から生み出される物だからね。むしろ人一倍はある自信があるよ」


 どうしてそんなことに気付けるだろうか。

 悪霊は奇声しか発さず、迷惑行為しかせず、一般人を無差別に襲う。ようやく生態が分かり始めたのは、闘い初めて千年も経つくらいだ。それだけ悪霊の取る行動は毎回理解不能で、奇想天外で、訳が分からないのだ。

 そんな相手に心があるかどうかなんて分からないだろう。


 「確かに昨日ほどの絶好調じゃないしさぁ、一気に発散しちゃったから、残りの妖力は結構少ないけどさぁ。それでも私はただの暴力じゃお母さんには負けないよ。というか、私はそもそもお母さんと戦わないから。例えお母さんが私を殺そうとしても私は絶対に反撃しないから」


 栄養源だからか、いや違う。この子の理屈からすれば、家族だからなのだろう。

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