両立
あの悪霊、少々分からないことがある。あまりに悪霊らしくないということだ。私を精神的に追い詰めたいなら、どうすべきだったか。
私の心の破綻の原因は『不幸でなくてはならない』という点だ。ならば私の精神を崩壊させたいなら、私をもっと不幸のどん底にに叩きこむ動作をすべきだ。それどころか、奴は私を幸せすると言った。そして間接的であっても私が真っ当な心を取り戻す手助けをしていたように見える。少なくとも、私を殺すアクションを起こしていない。
違和感になっているのは登場シーンだ、奴は始めに私に会う時に、悪霊の姿をしていた。始めから私の子供の頃の姿で現れた訳ではない。何か理由があったのか?
あの子が第三世代型の悪霊であり、その特質である『この世に存在しない何か』を、あの子は『まだ生まれていない私の子供(架空)』という存在の収まり、いまこの世界に存在している。
「あの子は一体、何者なのでしょうか?」
「あなたのお子さんでしょう、晴香さん。そう奴は言ったじゃないですか。まあ他に表現するなら……悪霊?」
それが混乱の原因なのだ。奴は『私の娘に成りすました悪霊』ではなく、『娘と悪霊』……この二つを同時に両立させてしまっているのである。
「私はあの子に会う手段を知りません、連絡を取る手段も知りません。今の段階で笠松町の機関を襲わせる訳にはいきません。何か重大なことが起こる前に、私と渡島さんだけで事件を解決しなくては。あの悪霊と折り合いを付けないと」
放っておいてもあの娘は私の前に現れるだろう、急ぐべき事態だろうが私の考えるべきは他にもある。私はあの悪霊の要望をどう応えて、そしてどう私の意思という物をどう伝えるかだ。それと奴の悪霊としての動きも把握できればなおよし。これからの第三世代型の対処への貴重なデータになる。そこまでは難しくても、せめて安心して消滅してくれるのが、指定目標ラインだ。
「そうですね、まずあの子の要望をどうするかでしょうが……。正直、難しいです。あの子は私に『育てられるとそれだけで幸せになってしまう』みたいなニュアンスのことを言っていました。しかし困ったことに、あの子の第一目標は『自分が幸せになる』ことではなく、『私を幸せにする』ことなんです。これがやっかいで、具体的に何かを完了したら良いといったことではなく、かなり漠然としているんです。『私はもう幸せになったから大丈夫です』なんて言葉だけで言っても伝わりませんし。何か明確に示せる方法はないでしょうか」
いや、その他にも要望らしきものがあった。
名前が欲しいと、産んで欲しいが。後者は必ず口約束になる。