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勲章

私はいったいどこから間違っていたのだろう。この人生の始まりからだろう。振払追継という代名詞に良い印象が無かった。母が偽名を使っていることに違和感があった、母が私の良い成績を褒めてくれなかったことに憤りがあった、母が私の失敗に対し無関心だったことが悲しかった。


 全て振払追継が原因だと思っていた。父親を早くに亡くし、たった二人だった母は私を最大限まで愛していた。それを私は勘違いしていた。行き届かない部分を掻い摘んで誤った解釈をし、勝手に母に幻滅し。


 自分を陥れていた。私は始め、悪霊に憑りつかれた理由がはっきり分からなかった。自分は不幸の星に産まれた存在で、母のようにならなくてはならないと思っていた。

 

 確かに振払追継は人を騙す陰陽師だ。しかし、それ相応の痛みを私達は抱えている。母が怪我をした時に、本部の命令で機関を移動しなくてはいけなかった。今まで仲間として戦ってきた人達から労いの一言を貰えないまま、姿を消さなくてはならなかった。騙す側には騙す側で事情がある。通常では理解出来ない、大きな傷を負って生きている。だが、それからひと時を幸せに生きることは、使命から脱却する物ではない、正当な権利だった。私は母親に対し、こう思ってあげられなかった。母に対して抱いていた感情は、私の娘としての裏切り行為だったのだろう。


 気が付いた、渡島さんに守ると言われ、娘に幸せすると言われ、ようやく自分の頭の中に、長年の偽りの霧が晴れた。


 「お母さん、私は……」


 「あなたは振払追継ではない、音無晴香でしょう」


 ……名前、そうだ。両親から与えて貰える最速にして最高の愛情。『名前を付けて貰う』。子供は名字ではなく、名前に誇りを持つ。私はしっかり愛の勲章を頂いていた。私は振払追継なんて肩書を貰ったんじゃない、私は『音無晴香』を貰ったんだ。


 気付いたら泣いていた。自分でも気づかないうちに。私は長年、母を苦しめて生きてきた。そんなことを今の歳になって気付いた。親不孝をここまで極めるとは、おのれが憎たらしい。自分が嫌いになりそうだ。


 「お母さん、私は今からお母さんを幸せにする……」


 まるで以前に聞いた言葉をそのまま同じ台詞で放っていた。


 お母さんは苦笑いをした、今の私をどう感じているのだろうか。裏切り者の娘と思っているのか、それともまだ私をただの娘だと思ってくれているのだろうか。以前にも言ったが私は母の考えていることが分からない、長年に渡り母を悲観的にしか見てこなかったからであろう。


 母は苦笑いしながら、こう答えた。

 

 「じゃあ、一つだけお願いをしてもいい?」

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