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勘違い

「お母さん、もしかしてあの子が何者かってこと理解してます?」


 「えぇ、悪霊でしょう。そしてあなたの未来の娘。希望を具現化した存在。もしあなたが子供を持つならば、いずれ出会うであろう家族。架空にして最も現実的な『この世に存在しない何か』と言ったところでしょう」


 全て分かっている、驚きだ。私は母とこの娘騒動のことに対し、一切の発言をしていないはずなのだが。一日中仕事で私と行動を共にしていた渡島さんがバラしたとは考えにくい。まだ私としっかり話し合いを済ませた訳でもないのに、母にそんな重要なことを不用意に言うとは考えられないのだ、いくらあの口の軽い男でも。だとすると、どこでそんな情報を手に入れたのだろうか。


 「あの子の概要をどこで入手しましたか?」


 「いえ、本人が私に教えてくれただけですよ。あなたと初めて山で会った時のことも教えて貰いました」


 そうか、本人が喋ったのか。……って、どうして信じてしまった、我が母よ。その説明だとあの娘が悪霊だって点も聞いたはずなのに、どうしてそんなに悠長に構えていられるのだ。怪我を引きずっていて、一人でどうしようも出来ない状況で怯えていたならまだしも、あの子を可愛がっていたなんて。


 「どんな姿でも孫は可愛いですよ、たとえ一緒にいる時間が本当は違う存在だったとしても、自分と敵対する存在だと分かっていても、擦り寄ってくる子供の手をを振り払うことは出来なかった」


 ……お母さん?

 どうして? 私のお母さんはそんな人じゃないでしょう。

 何を悪霊に心を許しているのですか、あなたらしくもない。


 あなたは長年、人を騙すことによって生計を立ててきた罪人なんですよ。名前を伏せ、素顔を隠し、感情を偽る、心を殺す。真っ当に生きることを拒絶して生きてきた、裏側の人間なんですよ。


 「お母さん、一体なぜ私を産んだんですか?」


 唐突に前触れも無く、会話の流れを察することもせず、ただ率直に今一番聞きたいことを聞いた。


 「子供が欲しかったからです。こんな私を愛してくれた人がいたからですが」


 「でもそしたら、あなたは幸せになってしまう」


 「どうしたの晴香? 急にそんな怖い顔をして……」


 え? これはどういうことだ? だって私は振払追継で、人を騙す生き物で。

 顔を伏せていて。名前を隠していて。感情を偽っていて。心は死んでいて。


 ……いや、全部……渡島さんの前では実行できてなかった。


 「晴香、どうして私は幸せになってはいけないの? どうしてあなたは幸せにならないの?」


 ……それは、私が振払追継だから……。

 

 私は勘違いしていた。大いなる勘違いだ。


 「私が勝手に自分が幸せになってはいけない人間だと思っていただけ……。そんな馬鹿な……。じゃあ今までの私の人生はただの自己満足。ありもしない責任感を自分に言い聞かせていた……だけ?」

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