炸裂
「とにかく私の中の悪霊を殺す方法を一緒に模索して下さい。私はそもそも、何が苦痛で悪霊に付け込まれたのでしょうか」
分からないのだ、ずっと考えているのに。
『自分のことは自分が一番良く知っている』という台詞は、あらゆる世界で否定されてきた。私はきっと自分でも気づいていない何かという物がきっと心にあり、それを悪霊に知らぬ間の内に利用されているのだ。
「そうですね……、晴香さん。逆転の発想でいきましょう。現時点での絶望を増殖させるのではなく、叶いそうな希望を木端微塵にして絶望に変えるというスタンスなのかな。晴香さんに何か将来の夢とか、達成したい目標とかないですか?」
叶えたい希望、将来の夢、達成したい目標。私の人生にそんなものは存在しない。生まれてから死ぬまで陰陽師という仕事が決まっている、希望なんて人生の中に感じない、達成したい目標などない……あるのは決められた任務だけだ。
「いえ、ありません。そんなものは」
「あー、それが問題ないのかも。晴香さんの人生に対する諦めた心がこの事態を引き起こしているのかも。何でもいいんです、『ペットを飼いたい』とか、『ブラインドタッチが出来るようになりたい』とか、『宝くじに当たりたい』とか。夢を持つのです。例えどんなに小さなことでも構いません」
……私の、目標……。私の人生……。
振払追継ではなく、音無晴香としての人生。
私は振払追継としての人生のみを真っ当してきた。自分は偽りしかない嘘で埋め固められた存在だと思っていた。自分は幸せになってはならない人間だと確信していた。私は私を否定していた。
「渡島さん、私は人生に対する希望というか、欲望が足りないのでしょうか」
「そりゃあもう存分に、俺は昔から七つの大罪に『強欲』と『色欲』が入っていることが納得いかなかったんですよ。だってなきゃいけない物じゃないですか。欲って絶対に」
そうか……、私には自分を自分と認めてなかったのか。
「だから、晴香さ…」
★
「おい、お前さぁ。何様だよ」
…………、出やがった。悪霊の奴。ラーメン店の入り口のドアが開き、悪霊はどうどうと入ってきた。ドアを勢い良く閉める炸裂音と同時に、凄まじく不機嫌そうな子供の顔をして、つかつかと私と渡島さんが並んで座っていたカウンターの前まで来ると、わざわざ私の横に座った。
私と渡島さんは仕事終わりの時間帯なので、普段着に着替えて巫女服や作業着を脱いでいるのだが、この子は巫女服を着たままだ。というか悪霊のくせに巫女服を来てくるなよ、駄目だろ。
「私からお母さんを奪おうとしているみたいだが、そうはいかねぇぞ、豚野郎。お母さんは私が守る」
……訳が分かりません。