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師匠

 渡島さんの師匠は第3世代の悪霊に殺された。


 ……、私はその師匠の苦悩を分かるかもしれない。

 誰にも助けて貰えず、誰にも認められず、ただ未来の平和の為に命を落としてまで悪霊を倒した。陰陽師の極みである、いや正常な姿と表現すべきか。


 「俺は師匠を尊敬していましたが、あの自殺した時に思ったんです。師匠は悪霊に敗北したのだと」


 意外だ、尊敬すべき師匠の命がけの偉業を良く捉えていない。普通なら師匠の天晴れな最後に感激すべきだろう。師匠のかたきを取りたくて、研究を引き継いだ訳ではないのか。


 「俺は師匠を許せないんです。あの人は自殺なんてするほど柔い人間ではなかった。誰よりも冷静で、誰よりも厳格で、誰よりも自分を正した男だった。なのに……死んでしまった。あんなにも心が強かった人が、自殺を『未来の為の犠牲』とか、『偉業な最後』とか、思う訳がない。きっと師匠は心から悪霊に塗り替えられた」


 『自殺なんて悪霊の思う壺』、その言葉の根拠はここにあったのか。自殺をして人生を終了することこそ、心が押し潰された瞬間であり、完全なる敗北の兆し。


 「……晴香さん。俺は悪霊を止めなくてはならない。あなたを失うなんて絶対に嫌だ。自分が死ねば解決するなんて発想だけにはならないで下さい。あなたの事は俺が絶対に守ります」


 その言葉は消えて無くなりそうな、掠れた声だった。渡島さんは私を守ろうと思っている。確かに私が死ねば万事解決に感じるのだが……この人はそれを敗北だという。生きることに執着を持つことは、それだけで大切なことなのかもしれない。


 「分かりました、但し……守るというなら、この私の中の呪縛を解く協力をして下さい。私の心を守るというなら、徹底的にお願いします」


 そうだ、悪霊に殺されないだけでは駄目だ。悪霊を倒さなくては。私と渡島さんは陰陽師なのだから。


 「…………えっと、晴香さん」


 「はい?」


 「守ってもいいんですよね? えーっと……俺でいいんですよね。いや、その……駄目だって言われた方が困るのはあれ何ですけど……いやぁ……。今日は『晴香さん』って呼んでも怒らないし、晴香さんに『助けて下さい』なんて言われるの初めてだし……、あははははは」


 何なんだ、急ににやけた顔をして、気持ちが悪い。これから私の心の中にいる悪霊の撃退方法について話し合おうと言うのに、先ほどと比べて随分と真剣さに欠ける態度ではないか。どうしたのだ、この男は。


 「……は、晴香さん。……えっと……その……」


 もどかしそうに下を向き、手を弄っている。何か『守る』ということ以外にも宣言したいことがあるのだろうか。言いたいことがあるなら、とっとと言って欲しい、私は自分の中の不安材料でいっぱいなのだから。

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