表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/462

鑑定

「私の中にいる悪霊は、私のことを母親だと語ったのです。別に観念的な母という意味でなく、住まわせて貰っている義理という訳でなく、ただ私を混乱させようと思っていった訳でもなく。本当にあの子は私のことを母親だと思っているみたいです」


 渡島さんが真剣な顔をして、手に持っていた割り箸をラーメンの椀の上に綺麗に乗せた。そして首を傾げて、悩むように目を瞑った。


 「……そんなパターンが。第三世代型の悪霊は極めて狡猾です、だから本人が寧ろ不幸になるような設定になりたいはずなんです。存在は疫病神そのものなのだから。娘っていう設定になって、晴香さんを苦しめようと思っているんですか。……なるほど、賢い。そういうことか」


 何か閃いたかのように、満タンまで入っていた冷水を一気に飲み干し、私に訴えた。


 「お兄さんの考えはこうです。奴は子供だという設定で機関を襲い、晴香さんを精神的に追い詰めるつもりなんです。晴香さんには振払追継として隠している情報なんていくらでもありますよね。それを公開して自分と同時に秘密を隠していたことと、内通者疑惑を織り交ぜて、晴香さんを苦しめる戦法なんだ」


 私だってその可能性は真っ先に考えた。だが、それでは諸々の内容が合致しないのだ。そもそも奴は他の人間を襲うなんてことはしていない、していないのは必ず

何か理由があるはずだ。


 まず、私に会う必要がない。その辺の機関の人間をランダムに襲っているだけで、今の理論は完成する。私に姿など見せない方が、作戦的に安心だし、何より私の心の中の憎悪が膨らむ気がする。原因など分からずに『お前の娘が犯人だ』と罵られた方が私の動揺を誘う効果がある。


 そして何よりあの言葉だ。『幸せにする』、あの言葉に納得がいかない。

 私が幸せになったのなら、奴は弱くなることはないにしても、強くなることは絶対にないはずだ。私を追い詰めるどころか、救済するスタンスになっている。


 もしかして、本当に私のことを母親だと思っているのか……。


 「奴の狙いは私を自分の母親にならせることです。……、いや本人の頭の中ではもう前提になっているのかもしれないけど。渡島さんの言ったこととは、逆のイメージなんです。私を精神的に殺したいなんて感じじゃかったんです。『育ててくれ』とか、『名前をくれ』とか要求してきましたけど、『育てて』はともかく『名前をくれ』に何の悪影響もありませんし」


 「要求があったんですか!! そんなことが、前例にありませんよ!!」


 前例? 前にも被害者がいて、その事件の関係者みたいな言い方だな。


 「……失礼かと思いますが、前にも第三世代型の悪霊が絡んだ事件が?」


 「……本家にいく前の俺の師匠が。俺の師匠は悪霊鑑定のプロだったんです、俺はその人に基礎から応用まで悪霊退散の技術を学びました。ですが本家に行ったすぐに師匠は、俺の元にとある研究テーマの内容を送っていたんです。第三世代型の悪霊の可能性を書いたビデオをでした。まだ俺の家にあります」


 悪霊鑑定、陰陽師の仕事の中でも人間に憑依した悪霊や、民家や施設に憑りついた悪霊を見つけだす役割を持つ陰陽師の仕事の一つだ。それのみを専門職にしている陰陽師も多数いて、なかなか経験とセンスを必要とする高度な仕事だ。


 「そのビデオの中には俺の師匠が実際に悪霊を心の中に住まわせたことの、内容を語られていました、もう師匠は悪霊に精神をボロボロにされ、瀕死の状態でした。元からかなり高齢だったのですが、もう昔の覇気のあった姿はどこにもなく、本当にかすれた老人に成り下がっていたのです」


 「で……、どうやってその悪霊を処理したのですか?」


 「…………、ビデオの最後です。師匠は『最後の実験をする』と言って決断をなさいました、悪霊と共に死ぬ覚悟です。俺の前で、テレビ画面の前で、俺の師匠は亡き人となりました。悪霊は見事、相殺。最後の力を振り絞った、師匠の精神的な最後の勇ましい姿でした」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ