動物
犯人の俺に対する悪質な嫌がらせ、その原因は分からない。
しかし十中八九、陰陽師に関わる者の犯行とみて、間違いないだろう。俺に単純に恥をかかせたいなら、わざわざ顔を完璧に同一化させるなんて超常現象を行う以外にも、いくらでも方法はあったはずだ。俺は他人から、少なくとも陰陽師の関係者の中に恨みを買った心当たりはない。そもそも犯人は俺を敵視していると断言出来ない。こっそりと一人で先輩の手作りの紙芝居をもう一度読み返しながら、そう思った。
これは完全に仮説である。例えば、二号は何かしらの目的があり、俺との接触を試みていた。だが、この学校の生徒ということ以外、持つ情報が無く、特に連絡手段もなかった。ただ、自分には未完成ながらも記憶、もしくは写真などの画像に変化するという技術がある。ならば、まるで自画像の絵を使用して人探しをするかのごとく、顔だけを橇引行弓に変化して、この学校の生徒に道端で知り合いにあたるまで聞き込みをし、俺がどこに行けば会えるのかを探ることが出来る。
この仮説が正しい場合、相手は間違いなく擬態能力の中でも究極を誇る妖術を持っている。そのまま同じ物体に化ける、そんな高等技術は一世代で完成するものじゃない。伝統妖術だ。
「化け狐、化け狸」
そう俺が呟いた。東城さんは首を傾げ、部長は満足そうな顔をした。
「なるほど、実に面白い。大きさや声が違うことから、ドッペルゲンガー説は恐らくはずれ。しかし、君の読み通り、もし狐や狸といった、怪の類による犯行だとしたら、声や大きさに違いがあったことに説明がいく。いくら変化したとはいえ、元の大きさや声までは、真似出来ない。もし可能だったとしても、行弓君の顔しか知らないのなら、完全一致を演出なんて、したくても出来ない」
別に俺と違って陰陽師でもないくせに、一般的には妖怪なんて摩訶不思議な存在、信じている人なんていないのに。そこまで推理するなんて、さすがはオカルト部の部長だよ。
「じゃあ私が昨日の夜に出会ったのは、狐さんだったんですか」
この人も凄い。よくオカルト部の妄言推理っぽいのを信じる気になったな。
「狐ではないかもしれない」
部長はホラーゲームも好きだが、ちゃんとオカルト方面も大好きな変人さんだ。意気揚々と初心者に化ける妖怪について語りだした。陰陽師である俺は、いちいち聞く必要はないけど。
「いいかい、確かに一番メジャーなのは狐オア狸だろう。しかし、古来の日本の各地に残っている逸話ではいろいろな動物が人間を欺いてきた。猿や烏。佐賀県で発生した化け猫騒動はかなり有名だ。化けた訳ではないが蛙も声を人間に合わせ、崖まで誘導し殺したなんてのもある。東城さん、君が昨日の晩に遭遇した妖怪について、私はかなり興味がある」
なんで女子って生き物はこうもしゃべりだしたら、止まらないんだ。ただ俺の周りの環境がおかしいだけなのか。まあでも、こんな胡散臭い部長の熱弁など、信じる訳がない。俺は信じるもなにも、妖怪の専門家なんですけども。一般人にとっては、妖怪豆知識なんぞ聞くに堪えないはずだぜ。
「へえ~、猫ちゃんも狐さんや狸さんの仲間だったんですか」
なんか絶対、間違った解釈になっている。おかしい理解になってる。
「よし、久しぶりに楽しくなってきた。これから三人でその妖怪の捕獲に向かうとしよう」
「わーい、なんの動物か楽しみ~」
おい!! なんか素人だけで恐ろしいこと企んでやがるぞ。
「行弓君も一緒にいくよな。潔白の証明の為に」
「行きます」
一般の方の身の危険よりも、自分の名誉を優先させる俺であった。
ゴールデンウィークどうしよう