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決め手

私のことを思ってなのか、私達の会話している場所は、機関の施設ではない。

 近くの渡島さんの行き付けの『ラーメン屋』である。こんな重要な内容だからこそ、こんな場所ではすべきではないと思うのだが。


 だが、また私のアパートで母親の前で話をするのは御免だ。『悪霊が私の子供を名乗って来た』なんて説明しようがない。さて、渡島さんはというと。


 「すいません、マスター。オーダーを宜しいですか」


 「かしこまりました、お客様」


 ラーメン店で何を気取った口調をしているのだ、場違いだろう。店員も何をちょっと嬉しそうに歩いてきているんだよ。嫌がれよ、迷惑そうな顔をしろよ。


 「ラーメン大盛りを二つ」


 「……私はそんなに食べません」


 「いえ、計算内です。食べ切れなかった分は俺が食べますからご安心を」


 他人の皿にまで手を出すな、小学生だってそんな失礼なことしないよ。夫婦じゃあるまいし……と、言う元気すら今の私にはない。


 「あれ? 晴香さん。いつもならそろそろハリセンが飛んでくるお時間だと思ったんですが……元気出して下さいよ。驕りますから」


 私だってツッコミを入れたくない時だってあるのだ。『生きる』か『死ぬ』かの瀬戸際のこの状況に、悠長に食事なんて無理に決まっているではないか。ラーメンなんて喉を通る訳がない。


 「晴香さん。悪霊とどんな話をしたんですか? 行弓君は悪霊と鉢合わせた瞬間に逃げちゃったらしくて、会話の内容を一切知らないみたいなんです。やっぱり心の中に入っている悪霊は、寄生した本人の前にしか現れないのか、いやでも一瞬は行弓君に姿を晒したらしいからなぁ、別に無理って感じじゃないと思う訳だけど」


 「……会話の内容からして、とにかく一回は私と二人っきりで会話したかったように感じ取れました」


 私とあの悪霊との対話は、あの場が始めてだったのである。自分が娘だと主張し、私を納得させる場面に、なにかしらの邪魔がいて会話を中断したり、私との会話を遮ったりされては、奴も少々は困っただろう。行弓君の一人程度なら作戦可能なのも頷ける、まあ結果的にはその行弓君もいなくなってしまったが。


 「そうなんですか、やっぱり二人だけで話したかったのですね。それでその悪霊は何と言っていたんですか? その言葉が今回の悪霊退散の一番の決め手になると、お兄さんは思います」


 決め手? 冗談だろう。あの悪霊の言った言葉のキーワードって……。


 『娘』、『家族』、『大好き』、『幸せにする』。


 「駄目だ、何一つまともなこと言われてない」


 「どうしたんですか、晴香さん。そんな絶望的な顔して!!」


 『この世に存在しない何か』、なるほど。姿形、性格、設定。全てにおいて七変化という訳か。もっとマシなことを言って欲しかった。


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