困惑
「……どうして私の本名を知っているのですか? あなたはどうして私を母親だと呼ぶのですか?」
「だってさぁ。私のお母さんはあなただもん。私はお母さんの家族ですから、お母さんの本名くらい知ってますよ。何せ私はお母さんから生まれたのですから」
第三世代型とは、『この世に存在しない何か』だと渡島さんは言っていた。確かにこの世界に私の娘などこの世に存在しない。そして、この悪霊は私の心の中に住まわせてしまった悪霊となる。
「私があなたを生み出した……」
「そうです、大好きなお母さん。私はお母さんから生まれ、お母さんに育てて貰い、お母さんの元から羽ばたく娘なのです」
私は何が悲しくてこの女の子を誕生させた? 何を憎悪に感じているのだ?
早くそれに気づかなくてはならない、でなければこの悪霊は私の怨念を、この瞬間にも吸い取っているのだから。いや、私が生きていたら。
「いけません、お母さん。お母さんは大切な私のお母さんです。お母さんは私のことを愛してくれていないのですか? 私はあなたから生まれた、あなたの肉親なのですよ。家族なんです、この世で最も味方な家族なんです。私を愛して下さい、私にもっといろんなことを教えて下さい、私をもっと鍛えて下さい。ねぇ、お母さん」
悪霊、私が悪霊を生み出した。本来は私は悪霊を討伐するのが役目の存在なのに。本当ならこの悪霊を倒さなくてはいけないのに。もし、この悪霊がただ私の心の中に住んでいて、私の中にある憎悪を吸い取って成長し、私の中の殻を破り飛び出して通常以上の力を蓄えて、一般人を襲うのだとしたら。
いや、特性として私の中にある変化の能力や、式神である妖狐までも奪われて利用されてしまうかもしれない。下切雀を扱っている姿からみて、全くそれはないなんて言い切れないではないか。
「あなたは何が目的なんですか。何を思って私の子供を気取っているのですか」
「気取っているのではなく、本当に私はあなたの娘です。そして私の目的……いや、私の夢はお母さんと幸せになることです。お母さんと私だけが幸せな、もう苦しむことはない理想の世界に現実を生まれ変わらせるのです」
そこだ、そこが分からない。私は何に困っているというのだ。私は幸せになりたいなんて思っていない、誰を恨んでいる訳でもない、理想の世界なんて思い描いたことなど一度もない。私にとっての幸せなんてない。私は……私は……。
幸せになどなってはいけない人間なのだ。
「お母さん、違います。いいのですよ、私達は幸せになっていいのです。ねっ? 分かったでしょう。お母さんは自分が幸せになってはいけない人間だと思っている。でも……思っているだけで、本当の精神は思考に付いて行ってないんです」