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そこに現れたのは、狐耳のフードを被った金髪の少女。

 背が低く、行弓君とさほど変わらないくらいの歳だろうか。

 

 というか、若い時の私の姿だった。


 「お母さん、これで信じてくれますか?」


 驚いた、悪霊がここまではっきり日本語を喋るなんて。こんなことは本当に初めてだ、悪霊はうめき声しかあげないものだと思っていた。


 いや、それ以前に恐ろしいことが。こいつ、私の幼少期の姿になりやがった。


 「お母さん、私はお母さんに会いに来たのです。大好きなお母さんに」


 「いえ、人違いです。私はあなたのお母さんではありません。あなたは、怨念を持って成仏出来ずに黒い魂を帯びたまま、孵化するという形で復活してしまった悪霊です。あなたに母親などいません」


 ここまでしっかりと否定すれば、折れるかっと思ったが、なぜか嬉しそうに笑い始めた。


 「何か面白いでしょうか?」

 

 「えぇ、だってお母さんが娘のことを忘れてしまっているから。私がこの瞬間にこの場にいるのは当然なのに。私は間違いなくあなたの娘です。あなたから生まれ、あなたの中で育ち、あなたの元から旅立つ予定の娘です」


 ……私から生まれ? 育ち? 旅立つ?


 「何を言っているのか、さっぱり分かりません。いい加減にして下さい。ここには既に救援隊を呼びました。私と戦いたいなら無駄な話し合いは不要です。さっさと殺しにきなさい」


 「いやです、お母さんは私のお母さんです。お母さんが死んでしまったら、私は存在できなくなる。私とあなたは大切な家族じゃないですか。傷つけあうなんて嫌です」


 存在できなくなる……私がいないと……。

 何となく見えてきたぞ、こんな可能性は考えたくなかったが、まさかこの現象は、あの時に渡島さんが言っていた第三世代型の悪霊なのか……。


 『この世に存在しない何か』。そういう事なのか。


 だが、渡島さんは今回の悪霊のことを誰かの心の中に寄生すると言っていた。対処法はその人間を殺せばいいとも言っていた。そしてこの悪霊は私がいないと存在出来ないと言った。


 つまり、この悪霊は私の怨念に寄生していて、私の怨念を吸い続けているということになる。そんなはずはない、私は生まれてからずっと、名前を偽り、素顔を伏せ、心情を殺してきた。私に心なんてものは存在しない。まして怨念など決してない。私が一体、何を恨んでいるというのだ? 何も感じない人間にそんな感情があるはずがないのだ。


 「お母さん、お母さん。私のことを見て。私はお母さんが大好きなんだよ」


 自称、娘は私に近づきもせず、だが後退もせず、ただ同じ場所で嬉しそうに笑っているだけだ。分からない……私は……何が悲しくて、悪霊を生み出したというのだ。

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