助長
烏天狗は捕獲不能レベルに認定されるほど強い。だがそれは、ただ強いからいう理由だけで、捕獲をしてはいけないことになっている訳ではない。
まず、烏天狗は一般人や陰陽師だけではなく、自分以外の妖怪さえも嫌っている。この山にどんな生き物も立ち入らせずにいる。
我々としてもこれは非常に助かっている。彼の逆鱗にさえ触れなければ、基本的に無害なのだから。だから寧ろ我々は、烏天狗が山に籠っていることを、助長しているくらいだ。山の周りに人避けの結界を張り立入禁止にして、自分達も絶対に近づかない。
私は今回、機関の人間に許可を取った。『橇引行弓という新人が、烏天狗とお近づきになりたいと言っているので』などと言ったところで、確実に却下なのは分かっている。だから『あの山にこの町に潜伏中の悪霊が、住み込んでいる可能性が考えられます。だから、烏天狗に注意を促すと共に、あの山の調査に行って参ります』と嘘をつくしかなかった。
「……行弓君。烏天狗に出会ったら、ます何て言葉をかけるおつもりですか」
「え? そうだなぁ。まずは……怒る」
「怒る!?」
一体なぜ、烏天狗に憤りを覚えているというのだ。というか、君は妖怪と友達になりたいとか言ってなかったっけ? 何を考えているというのだ?
「それで、『いいかげんにしろ、お母さんが泣いてるぞ!!』って言う」
そんな温い言葉じゃ本物の引き籠りだって反応しないよ!!
やっぱりこの子はどこかおかしい。陰陽師というか、普通の思考をしていない。子供なら子供らしく、ちょっとは妖怪を怖がれって話だ。
「そして、何と続けるのですか?」
「そして『お前はまだ頑張れるはずだ。この瞬間から生まれ変われ!!』って言う」
お前はどこの熱血教師だというのだ、勘弁しろよ。もし、烏天狗が暴走した場合に、君を連れて逃げきれる自身がなくなってきたぞ。子供だから危険性とか、一切分かっていないのだろう、こっちとしてはいい迷惑だ。
「でもちゃんと最後に『俺がお前の最初の友達になってやる』って言って、完璧に烏天狗の心をがっちり掴む」
「……君の楽しい妄想は本当にもうたくさんです。君は考えが甘すぎます。君は『妖怪と友達になりたい』と言っておきながら、彼が本当は何に苦しんでいるのか、全く分かっていない」
「そんなの、お前達が差別とかして、苛めるからに決まっているからだろう」
「烏天狗に限っては違います。烏天狗は内の機関でも特殊な立ち位置の妖怪です。我々とは完全に縁を切っている孤高の妖怪なんですよ」