防犯
「失礼します」
部室のドアが開いた、そこにいたのは俺の知っている人だった。だが、俺と接点があるという意味ではなく、ただこの人が有名人ってことなのだが。
名前を東城佐奈、二年生で吹奏楽部をしている。特徴といってはあれだが、温かみを持った優しそうな顔をした美人で、背は一般的な普通の高さなんだが、胸などのパーツが大きい。ただでさえ変態疑惑があるため、説明はこれにて終了とする。彼氏玉砕率が校内でも高ランキングなことで有名。
「あっ、昨日の変態さんじゃないですか、昨日はよくもやってくれましたね」
なんで俺二号はわざわざこんな女性をターゲットにしたんだ……。
「私、自慢じゃないですけど、ナンパの被害の経験はこれが初めてじゃないです。ですけど……女の子の恰好してナンパってどういう性癖の持ち主ですか!! あなたは。いやこの際、あなたが変態かどうかなんてどうでもいいです。問題はあなたが私をどういう人間だと思っているかってことです。確かに私は男の子の交際を断ってはや数年っていう、傍からみれば、嫌味な女なのかも知れません。でも!! 別にだから女の子にしか興味がないとか、女装趣味がない男には興味がないとかそんなんじゃないんですからね!!」
誰もあなたの華麗なる恋愛理論なんぞに、説明を求めていない。つーか、一気にしゃべりすぎだ。
「昨日は油断しましたが、今日の私は一味違いますよ。ちゃんと、防犯用具を携帯してきましたとも」
制服の腰あたりのポケットから、いろいろ取り出した。
「まず防犯ブザー、これで近隣の皆様方は全て私の味方、あなたの愚行から私を守り避難させてくれます、そして昨日は充電が切れていて、活躍出来なかった携帯電話、これで110番の暗証番号と共に、お巡りさんまでも私の見方となってあなたの魔の手から救ってくれます。さらにこの録音機、これであなたからのバイオレンスの正確な情報を記録することが出来ます。これであなたを社会的に抹殺します。あと最後に護身用金属バット、これであなたを抹殺します」
いや、金属バットは防犯グッツじゃないから。
「と、いう訳だ。行弓君。今度からセクハラは控えるように」
「だから俺は無実だって言っているだろうが、部長!!」
部長はよくとても大切な場面で俺を裏切る。
「この期に及んでまだ言い訳をしますか、この社会不適合者。セクハラ魔人は早く山に籠って、修行僧のごとく滝にでも打たれながら、心を洗い清める作業に取り掛かりなさい!!」
今回の事件の処分のされ方が具体的すぎる。俺、真犯人を見つけなければ、山で引き籠りニート生活が待っているのか、なんて災難だ。俺はこれでも体も心も弱いんだぞ。
「よし、では本題に入ろう。彼女が被害者の東城佐奈さんだ。今回、事件に協力して貰うことになった」
じゃあ何だったんだ、さっきのあのやり取り。
「宜しくお願いします、橇引行弓君。死ね」
駄目だ、この人はマジだったようだ。
「で、本当に彼があなたにセクハラをしたのですか?」
うーん、と少し腕を組んで悩んだあげくこう答えた。
「顔は彼で間違いないですけど……なんか身長が違うし、声も違います」
ほら、やっぱり!! 俺は紳士なのだ、女性の嫌がることなどしないのだ。
「身長や声が違うとなると、そいつはどんな偽物なんだ?」