差別
「なんで差別なんてするんだよ、可哀想じゃん」
そうですね、言いたいことは分かりますよ。
学校では差別することは駄目なことだと、教育するから。
だが陰陽師では真逆の教育をする。自分が操る立場であることを覚えさせ、妖怪は奴隷だと思い込ませる、悪影響な間違った教育を率先しておこなっている。
『人類は皆、平等』、裏を返せば『人間以外は不平等』って話なのだ。
「ですが侵害ですね、不平等主義なんて陰陽師だけの抱える汚点ではないです。全世界共通の人間の心の中にある産物です。平等主義というのは、人間の成長を著しく阻害します。学校は嘘つき何ですよ、学校の先生という生き物は道徳の授業中に偉そうに『平等』について語ります。大学進学の為に多くの同級生を踏み潰し、採用試験で自分だけが勝ち残る為に他を容赦なく蹴落とした連中の戯言です」
何が正しいか、それははっきりしている。平等が正義だ、差別は悪だ。この方程式は絶対に揺るがない。しかし、もしこの世の人間が全て悪人なら……差別を貫き悪が律する。世界は『正しさ』ではなく、『効率』を重視する。世界が栄えた理由は馴れ合いでもなければ、友情でもない、綺麗な布で覆いかぶせた悪だ。
「行弓君、差別とは『競争』であり、『誇り』です。人間は勝利を重ねるたびに、プライドという物を肥大化させ、自分自身を追い込み、決して勝てない闘いでも奇跡を起こす。奇跡の女神とやらは、平等な世界より、厳しい生存競争に微笑むのです」
私と行弓君はこの言葉を皮切りに、会話をしながら足を前に動かし始めた。
「人間は決して強い生き物ではありません、貧弱なものです。しかし我々のような陰陽師は、自分達より遥かに強い妖怪に対し、優位に立つまでの奇跡を起こした。差別意識があったからです、諦めずに拒絶し続けた成功報酬なのです」
……行弓君は何も答えてくれない、黙ったまま下を向いている。
彼は小学生だ、まだ差別の本当の意味なんてものを理解できる歳じゃない。
寧ろまだ、心優しいままでいた方が、彼の将来の為になるかもしれない。
だが、駄目なのだ。彼が陰陽師になるというならば、必ず差別意識を持ってもらわなければ。勘違いでいい、私の洗脳で構わない。兎に角、彼には妖怪と自分が対等な立場にいないということを理解して貰わねば。妖怪は友達なんかじゃない、それを彼に伝えなければ。
妖怪が何故、人間の子供が好きなのか。
それは妖怪と自分が違う存在だとあまり思っていないから。
だから、行弓君には妖怪が嫌いになるような、陰陽師の考えになって貰う。まだ引き返せる、まだ私の話を聞いてくれるこの段階なら。