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「お母さん。じゃあ何で『この人誰?』とか言ったんですか」


 「いや。ノリで」


 お母さん、ノリって何だよ、ノリでそんな冗談を言わないでよ。


 「いやぁ、並ぶと本当にどっちがどっちか分からないですね。やっぱ変化術は凄いです」


 変化の術じゃねぇよ、忍者じゃあるまいし。あと例えお母さんが許可したからといって、私に無断で侵入したことは絶対に許さない。


 「で、ご用件は何ですか? 催しの途中に叫んでいた悪霊の何とかの話ですか。重要な話なら仕事場で言ってくれればいいのに。わざわざ、こんな狭いアパートで話さなくても」


 「はい、すいません。しかし、お兄さん的にこれはかなり極秘な情報でして、仕事場で同僚に話を聞かれるとまずいし、ファミレスで話せるような内容じゃないんです」


 だからって私の自宅で話さなくても……ちょっと待て。この男に私と母が入れ替わっているの……バレた。


 「すいません、渡島さん。この話し合いの後に、貴方のこの家に関する情報を全て消去させて頂きます」


 「えぇ!? なんで!? 別に俺は何もあさくっていませんよ」


 違う、私の秘密を握ったからただじゃおかないという意味だ。


 「その必要はありませんよ、晴香さん。貴方は私達の関係を始めから知っている。そうですよね」


 馬鹿な、私と母は何一つの変わった部分は無い完璧なコピーだ。どんな手品で私達の関係をあばいたというのだ。


 「……俺は実は本部にいた頃から、振払追継さんのことを知っていたんです。勿論、お母様の方の追継さんを。怪我で体を痛め復帰出来ずに、一旦機関を脱退する手続きを担当したのが俺なんです。元の地元の陰陽師から怪しまれないように復帰後に機関を転勤し、家族二人でここに来たことも。怪我を引き摺る母の為にあなたが母の名前を使い入れ替わって、機関にいて仕事をしていることも」


 「……じゃあ、会った始めから私が『振払追継』じゃないことを知っていたんですか」


 「はい、音無晴香さん」


 私達のような正体を隠して務めを果たす陰陽師は、引退したという報道すらしてはいけない、偽名だけを轟かせておくことに意味がある。機関において私達のような存在が必要な時もあるのだ、正体不明であることが存在価値であるような陰陽師が。


 本部の人間には内通者としての存在価値だ。監視役という訳ではなく、ただの測れない恐怖としてだ。人間はある程度、恐怖の中に身を置いていた方が真面目に物事に取り組むのである、そして本家に仇をなす連中を生み出さない為の措置だ、私達は目に見えない監視官になっているのである。


 これが仲間さえも騙し続ける本当の理由であり、引退する時にわざわざ本家に行って手続きをしなくてはならなかった理由である。

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