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卓袱台

 結局、私は日野内飛鳥と橇引行弓。この両名を新しい陰陽師として申請した。日野内飛鳥については問題無いと思うが、橇引行弓は陰陽師になったとしてもすぐに記憶を消されて解雇という話になるだろう。彼が鬼神スキルで記憶をどうにかなるうちに、処分されることを祈る。行弓君の為に。

 

 そんな私、振払追継は年齢を妖力で偽っている。

 『本当は七十代のお婆さんで、妖力で若く見せている』という肩書だ。

 なぜこんな偽装してなおこんな看板を掲げているのかというと、振払追継という始めから存在している他者の経験があるからだ。


 振払追継は何者なのか、というととある妖狐使いの変化を基調とする陰陽師の家族が共通の偽名、私達は家族同士で家族だと偽っている。

 つまり……私には振払追継という家族がいまして……。

 私は母とアパートで暮らす二十一歳であるなどとは……言えないのである。


 「おかえりなさい、晴香さん」


 私には、私にも、私にだって……音無晴香おとなしはるかという名前がある。まあ、そんなもの家族を見分けるのに利用するだけの物なのだが。私の前で卓袱台の上でラーメンを啜っているこの女性は私の母である音無晴江おとなしはるえさんは、まったく私と変わらない容姿をしているから。


 そして私はこの人として……振払追継だと語っているから。


 「……お母さん。食事なんて私がやるのに」


 「ん? いいよ。今日も忙しかったのでしょう」


 …………、これが嫌なのだ。

 私を母は特別視しない、私のことを呼び捨てにしないし、私に対しても時々敬語を使うし、私に対しすぐ遠慮をする。まるで血の通っていない家族のようだ。姿は瓜二つなのだが。


 母はテレビから目を離そうとしない、ただじっとしている。

 これが私の家庭だ、任務の為に、名前を伏せ、素顔を隠し、感情を殺す。

 これが他人を欺くことで生活してきた人間の末路だ。


 私にだって言えることだ……私達家族に……幸せでいる資格は無い。

 こうやって、世界に溶け込みながら、見えないように生きるしかないのだ。


 「で? 晴香さん。この人は誰?」


 ……は?


 「いやぁ、お邪魔してます。お帰りなさい、追継ちゃん」


 …………………………は?


 「何で私の家にいるんですか? 渡島さん。えっと、これは警察を呼んでもいいレベルですよねぇ。陽気な性格とか、セクハラ上司とか……そんな領域ですらないですよねぇ。犯罪ですよねぇ」


 「いやぁ、先回りしました」


 「だから、先回りしちゃ駄目でしょう。何で私のお母さんと仲良く卓袱台に座っているんですか……、悲鳴をあげてもいいですか?」


 「違うんだ。これは誤解だ!!」


 「一体何が誤解なんですか!!」


 とその瞬間、咄嗟に動いた母に頭を叩かれた。


 「私が呼んだんです。重要な話があるから、とね」

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