都市
それからの昼休みまでの時間はまるで地獄だった。教室に入ると同時に、クラスメートの男子全員からによる胴上げ。さらに英雄だとか勇者だとか俺に絶対に似合わないあだなを命名された。
女子からは、とにかくシカトされた。わざと俺にも分かるように顔を背けたり、しっかりと俺を見ながら陰口言ったり。
噂が伝わるスピードの速さに驚いた、最近の携帯機器が原因だろうと推測する。教師に呼び出され、生徒指導室で半ば言葉による拷問がおこなわれた。さらに通行人が証拠写真なる物を取っていたらしく、これが目に入らんかと言わんばかりに突き付けてきた。確かに顔は俺だった。
勿論、俺は罪など認めていない。だって、俺は無実だ。
だいたい写真を拝見させて貰ったが、可笑しな点がいくつもある。
まず身長が低い、被害にあった女性と比較しても分かるが、これじゃ小学生かっていう大きさだ。
それに、顔は確かに同じだが、他にこれといった俺と断言できる共通点がない。
そもそも俺にはアリバイがあるのだ、部長と自宅の電話で通話していたのだ。その時間は母親も家にいた為、俺が家から出ていないのは明確である。
一旦、俺は釈放された。でもやはり、先生はどこか俺を信用していなかった。
「大変だったな、行弓君。不機嫌そうな顔をしていないで、お茶でもいかがかい?」
「結構です」
実際、俺は暴れたいくらい苛立っていた。ここまでの侮辱を受けたのは、初めてだ。昼休みになり、その被害者さんの話を聞くために、俺は部長とオカルト研究部の部室にいた。
「絶対、犯人を見つけ出して殺してやる」
「それはあんまりお薦めしないなあ」
またパソコンから、目を離さない部長が、唐突に言った俺の言葉を遮った。
「だってこれほどの悪質な悪戯もないですよ、許せません」
「気持ちは理解出来るけどもねえ、私はまだ君に死んで欲しくないんだよ」
部長の言っている言葉の意味が分からない、殺すのは俺だというのに、なぜ俺が死ぬのか。
「ドッペルゲンガー、各国で噂される都市伝説なんだけどもね」
ドッペルゲンガー、自分と全く同じ存在が自分の見えない環境の中で生活をしだす、原因は生まれてくることが出来なかった双子の霊やら、人間の進化の過程により自分より優れた自分と交代するため、などいろいろな説がある。
「この都市伝説にはある共通したパターンがあってね、もしオリジナルと偽物が遭遇してしまった場合にはほぼ間違いなく、殺しあうらしいよ。だが結果はいつも同じでね。オリジナルが勝利した試しはない、だそうだ」
つまり、いくら俺が殺意を持って、俺の偽物と対峙しても返り討ちに遭うだけ、そう部長は言いたいのだろう。一般人ならこの理屈で納得したかもしれない。だが俺は陰陽師だ、部長には悪いが大体犯人の目星は着いている。それ以前に身長が違うならドッペルゲンガーの仕業じゃないだろう。
その解説をしようと部長にした時、ドアにノックが掛かった。