積極性
日野内飛鳥、彼女の勧誘を私一人でやってもいいのだが……それでは渡島さんを放置することになる。あの男を監視しながらすべきだ、先ほど子供達の誘導をおこなっていたが、ああいうリーダーシップはあるのかもしれない。
と思って、呼びに来た訳なのだが……この男は一体何をやっているのだ。
「なあなあ、ニート。どうやったら陰陽師になれるんだ?」
「そうだなぁ、まずは素質をあそこの美人なお姉ちゃんに認めて貰わないと、俺に決断権はないからさぁ」
渡島さんは先ほどの橇引行弓君と一緒に、地面に『妖怪辞典』を開きながら会話をしていた。百歩譲って、楽しく会話まではいい。だが、あの流れはマズくないか? 素質の無い子供を引き入れる訳にはいかない、あの子は陰陽師になれない、そんなことは渡島さんにだって分かるはずだ、あの男は何を考えているのだ? そこでやるべき行動は、しらばっくれるとか、上手く誤魔化すとかそういう方だろう。
「そうだなぁ、陰陽師はなりたくてなる職じゃなくて、こう……運命みたいな感じでなるものだからさぁ。でも君の熱いハートは伝わったぜ。その烏天狗ってのには、俺が責任を持って話を着けてくる。お前と友達になれるように」
「馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
私は普段の私ではありえないトーンの声をまた出し、渡島さんの口封じをした。冗談じゃないよ、何を捕獲不能レベルの妖怪の逆鱗に触れる真似を、何も事情も知らない子供と約束しているんだ。行弓君を殺す気か!!
「何をするんですか、追継さん。抱きしめ返しますよ」
「止めて、お願いだからそういうこと言うの止めて」
もう駄目だ、この阿呆に何を言っても無駄だ、説得すべきは子供の方である。
だが、状況はさらに悪化する。何と行弓君は渡島さんにこう言い返したのだ。
「嫌だ!! 俺は自分の力だけで烏天狗と友達になるんだ!! 邪魔をするなよな、おっさん!!」
オイオイオイオイオイ、君を烏天狗に合わせる訳にはいかないんだって。
「いいだろう、行ってこい!! 少年!!」
「馬鹿野郎!! 立場を忘れたのですか、渡島さん。あなたはこの子を全力で止める立場の人間でしょうが!! 促してどうする!!」
行弓君は私の方をくるっと向いて、真剣そうな顔でこう言った。
「お姉ちゃん、頼むよ。俺を陰陽師にしてくれよ。きっと役に立つから」
「いけません、陰陽師は危険な務めです。無暗に適性の無い子供を陰陽師にする訳にはいけません。それに烏天狗は危険な妖怪です。貴方を烏天狗に接触させるなんて絶対にさせませんよ」
「嫌だ!! 俺はあいつに会いに行くんだ!!」
「そう言うと思っていました」
私は何の理由も無く、彼に陰陽師にしてあげられない理由を語った訳ではない。鬼神スキルでこの子の妖怪に関する記憶を全て消す、それしかない。強情で動く人間に対話は効かないのだから。
私は行弓君の頭に手を伸ばした、可哀想だと思った、同情もしている。
しかし,私の判断は間違っていない。
「いいや、間違っていますよ。お兄さん的には」
私の腕は渡島さんの右手に阻まれた。