林檎飴
橇引行弓、妖力を分け与えてみない限り分からないが、私の見た感じでは陰陽師に適性があるとは思えない。ただのどこにでもいる少年に過ぎない。
一人で勝手に子供たちを束ねてお祭りを楽しむ渡島さんを放置し、私は私で余った子供たちの誘導を行なった。結果は虚しい物だ、先ほどの橇引行弓を含め、妖力に反応の高い子は一人もいなかった。渡島さんの連れて行った方の子供たちはどうだろう、真面目に人材探しをしてくれていれば幸いなのだが。
「どうでしたか?」
「いやぁ、お兄さん的に言うなら皆合格ですね。元気が良くて、動きが機敏で、何より熱いハートを持っている。これが成長と共に薄れていく魂だというのならば……神は何と罪深き存在よっていう話でして」
「……どうでしたか?」
「そう睨まないで下さいよ、ちゃんと逸材は拾いましたって。ほら、あそこの可愛らしい女の子」
……、黒い髪、薄れた目、右手には林檎飴を握っている、食べようとはしないが。別に誰か友達とやってきたという訳ではないらしい。先ほどから完全に集団から孤立している。まるで一人ボッチだ。
「林檎飴渡して、ちょっと待ってくれるようにお願いしているんです。勧誘する前に追継さんにチェックを貰う必要がありますから」
「分かりました、では私もあの子に接触してみます」
そう言うと、私は渡島さんが選んだ子供って大丈夫かぁ? とか自分に言い聞かせながら、その女の子に近づいてみた。
「こんにちわ、えっと……。お名前を教えてくれるかな」
「……あすか、日野内飛鳥」
決して愛らしいと思える子じゃなかった、目は機械のようで何か薄く感じる。集団から孤立することは陰陽師の素質としては悪くない、陰陽師は出来る限り一般人との関係を断たなければならない。
だが、何だろう。この子は誰かさんと似ている気がする。
「ねぇ、陰陽師って知っている?」
「…………」
女の子は何も言わずに首を振った。少々強引だったかもしれないが、私は何も言わずにその子の両手を林檎飴ごと握った。温かい、私の妖力に微弱だが反応している。いや、……だがこの反応は共鳴ではなく、反発の反応なのだが。
「あ、あのう……」
女の子は困ったような素振りを見せたので、一礼し手を離す。あの男にしては立派に仕事をこなしたじゃないか、この日野内飛鳥さんは合格だ。十分陰陽師としての才能がある。ここから先はあの男の仕事だ。
「そのお菓子、食べてもいいよ」
私はにっこりと笑ってあげると、女の子の反応を見ることなく、私は後ろを向いた。これ以上この女の子を見ていたくなかった。
……誰かさんを見ているみたいで、堪らなく嫌だった。