勧誘
渡島塔吾、その勤務態度を見る限り、優秀さを見出すことは出来ない。
隙あらばサボっている、報告書を指定した期間内に提出したためしはなく、完成度は極めて低い。用事があって呼び出そうとしたら、すぐに職場から離れてどこかへいなくなっている。
さすがに昨日、探し回って見つけた先が近所の公園で子供たちとサッカーしていた時は、「早く帰ってこい!!」とこの私が叫んだ。
長年、名前を隠し、素顔を伏せ、感情を殺している私が馬鹿みたいだ。
この男を見ていると、今までの自分が犠牲にしてきた、諦め削ってきた物が、すべて無駄かのように思える。
そんなことはない、頭では分かっている。
自分が変化を基調とする陰陽師で、百の仮面と千の偽りの感情を持つが故の、代償なのだと。この男とは根本的に生まれていた使命が違うのだと。
「やっぱ、あれだなぁ。ここに来て正解でした。ここなら俺が自由に生きられるし」
昨日、食事中に私にこんな下らないことを言ってきた。
誰もお前の自由なんか認めていないし、だいたいお前は前の仕事をクビになってここまで来た訳だろうが、生意気だぞ、弁えろ、と私のキャラでは言えないわけで。ただ黙っているしかないという、この無力感。
「あれ、疲れてます? 追継さん」
お前が一番のストレスの原因なんだよ。
「この前、とても美味しい定食屋見つけたんですよ。一緒に行きません?」
だから、仕事中にそんなどうでもいいこと叫ぶな。
「で、今日の仕事の内容って何です?」
…………………、これ私、怒っていいのではないだろうか。
今日でこの説明は三回目だ、昨日の時点でしっかり説明も済ませてある。
最近、この辺りで出没を開始した悪霊を裁く為に、事務まで手が回らない状況だから、妖力を持ち合わせない子供に付加して、陰陽師への勧誘をしようという作業を今日の午後からすると言っておいたはずだ。
昨日に打ち合わせをして、今日の朝のミーティングでもまた打ち合わせし、さらに一時間前に尋ねられたから親切にも答えてやった。
なのに…………覚えてやがらねぇ。
「えっと、取り敢えず、昼飯から」
「勧誘です!! 今日は地元の小学生達の勧誘をする日です。私はあなたの秘書でも執事でも手帳でもないんです、そのくらい自分で把握していて下さい!!」
しまった、思わず声を大にして叫んでしまった。
「え……はい」
私が感情を表に出さないからだ、この男が驚くのも無理はない。
通常の人間のように徐々に怒っていく様という物を感じ取れないのだろう。私の演技力を褒めるべきか、この男の愚鈍さが凄まじいのか。