伝言
八話完
「すげぇ、びっくりした」
悪霊というのは本来、陰陽師が集まって、個々の能力を掛け合わせて、ようやく倒すというパターンが一般的である。一人で挑むなど無謀だし、本来絶対に敵うはずがない。それを……、リーダーは瞬殺しやがった。実践経験のない俺でも驚きを隠せない。
だが良いのだろうか……、口を割らせるんじゃなかったっけ?
「よし、片付いた。それじゃあ、そこで寝ているカワウソを起こすよー。鶴見ちゃん、回復スキル持っていたよね、ちょっと手伝って」
「あっ、はい」
えっ、まだ生きているの? 完全にお腹と背中を角で貫いていたように見えたのだが……、本当に大丈夫なのだろうか。
「死んではいない、何故なら妖怪は死なないから。君は妖怪に死という概念は存在しないということを忘れたのかい? まあ、普通には死んだから……、ほっといたら再び目覚めるのは百年後か千年後か分かったもんじゃないけど」
五百機さんの台詞でようやく思い出した、あまりに今の一連の流れがインパクトありすぎで、動揺していた訳ですけども。
「いやぁ、びっくりしたぁ」
「おや、そうか。君は実践経験が皆無だったな。安心しろ、リーダーは陰陽師の強さを超えているから。くれぐれもあれが日常的な悪霊退散だと思わないでね。あんなのリーダーくらいしか出来ないから」
いや、分かっているよ。あんな芸当は絶対的な強さがないと出来ないってことくらいは。麒麟を使用するなんて、まじであの人の正体は何者なんだよ。
「う~ん、困ったなぁ。ちょっと強く刺殺しすぎたみたい、そう簡単に復活しそうにないや。まだ、時間が掛かるね」
だから言ったじゃん!! そこまでする必要ないじゃんって!!
「それより日野内ちゃんのお着替えだよ、あーでもカワウソの面倒も見たいし……、どうしよかなぁ。皆、隊長命令だよ。今から僕と鶴見ちゃんがカワウソの回復に専念するから、残りの全員で日野内ちゃんをコーディネイトだよ、日野内ちゃんをこの部屋に連れて来て」
アカンダロ、俺とダモンは特に。
「その必要はないね」
不意に玄関側の扉が開いた、振払追継だ。いつものフード姿に、今回は肩に子狐を乗せている、仕事帰りのようだ。
「今さっき、日野内さんと擦れ違いました。話によると、捕虜として捕まっているところを無防備に解放されたらしいので、窓から普通に逃げ出した。だってさ、気の毒だね。リーダー、男装させるつもりだった
んだろう。そんな真似は御免だってさ。恰好の獲物を逃がしたね」
「えー、逃げちゃったの!!」
いきなり目に涙を溜めて、啜り泣きを始めた。そりゃ俺でも逃げるよ、そんな変態になる恐怖から脱却する為なら。というか、ちゃんと男装なんて嫌だったんだな、飛鳥の奴。
五百機さん鶴見は嬉しそうだ、二人ともあいつの顔なんて見たくもない性分だろうからな。気持ちは分かるけどさ。
さて、一仕事終えた後の、一騒動だったな。俺も忙しい人間になったものだ。
「そういえば、もう一つ。お姉さんから伝言です」
追継は駆け寄ってくると、俺にしゃがむように指示し、内緒話をするように俺の耳に口を近づけた。
「必ず助ける」