偽物
「それで事件というのはいったい?」
「ただ言葉で説明するのは、面白くないから紙芝居にしてきた」
なんて時間の無駄なことだろうか、紙芝居なんて普通、一日で書き終わるものじゃないのに。
部長は鞄からスケッチブックを取り出すと、ゆっくりと話始めた。
昔々、いや違った。昨日の晩。とある女子高生が深夜、八時ごろ。今日も長かった部活が終わり家に帰宅していました。
今日の晩御飯は何かなあと、期待に胸を膨らませていると、街灯の下に明らかに女性の服を着た男子生徒に出会ったのです。
マジな変態さんだと確信し、早くその場から逃げようとしたら、なんとその男は近づいて来たのです。今までに感じたことのない、恐怖と気持ち悪さに、逃げようと走り出したその時、その少女は腕を掴まれました。
すぐに振り払おうと考えましたが、その男の掴む力の方が強く、なかなか逃げ出せません。そして、その男は少女に向かいこう言ったのです。
「こんな顔の男知りませんか?」
「つまり不審者がこの付近に出没したってことですね」
「そうだ、私が確認しただけで、三人の生徒が被害にあっている」
それは大変な話だ、夜の闇に隠れて女性を襲うなんて。紳士としては許せない行為だ。
「それで……この話には実は続きがあるんだよ。時間がなくて紙芝居は以上だが」
確かに、こんな話の終わり方をしてしまっては、本格的にホラーな紙芝居だ。
「それでその男はこの後になんて言ったんですか」
部長はゆっくりと目を瞑り、行き成り声のトーンを落して囁くように言った。
「橇引行弓っていうのですけど」
は? えっと、え? 俺?
俺は昨日、授業が終わったら真っ直ぐ家に帰って、晩御飯食べて、風呂に入って、宿題して、テレビを視聴して、部長と電話で話をして寝たはずなのだが……。
間違っても女装とか、セクハラとか、深夜徘徊とかしていないのだが。
「君はいつから変態になったのだ」
「部長の作り話でしょう、俺を脅しているんでしょう?」
「残念ながら虚言ではない。本当にあった話だ」
「誤解だ、確実に誤解ですよ。俺みたいなチキン野郎にそんな大胆な事が出来るわけないじゃないですか」
「待て待て、私も本当に君自身がやったとは思っていない。なぜなら、事件があった八時の時間、君はこの私と自宅の電話で通話をしていたからだ。つまり、私は君の無罪のアリバイ人なのだよ」
良かった、部長から変態だと思われていないようだ。
「しかしだ、本当にその真犯人の顔が君と同じなのか確かめる必要がある。今日の休み時間にも部室に来てくれ。被害者の一人がこの部室に来てくれる予定になっている」