怨念
「がしゃどくろはかなり悪名高い妖怪でね。基本設定が悪霊に似通っている箇所が多いんだ。埋葬されなかった死人の魂が集まって、仕返しに何の関係も無い、まだ生きている人間を襲う。こんな設定は妖怪ではなく、悪霊の設定だろう。がしゃどくろはただ強いから捕獲不能だったのではない」
その時、五百機さんとリーダーが部屋に帰ってきた。
「なかなか面白い話になっているじゃないか。本当は日野内ちゃんの変身に時間を使いたいところだけど、仕方がない。その契約解除の方法については私が説明しよう。じゃあ、行弓君、鶴見ちゃん。妖怪と悪霊の違いは何だと思う?」
違いか……、そう言えば深く考えたことが無かったな。そう簡単に思い着かないな、一瞬で頭に浮かばないぞ。
俺が答えるより先に、鶴見が手を挙げた。
「えっと……形かな」
形か、なるほどな。分かる気がする。
悪霊の体躯は完全に人間だ。それ以外の恰好など見たことが無い。俺はあんまり悪霊との戦闘を経験したことが少ないが、基本知識として悪霊は人間の形であると教えられた。
それと比べて妖怪は、人間と全く同じなのは存在しないんじゃないか。
その姿は、車輪や提灯、木綿や傘などの日常道具。人間に動物が合成された姿。妖狐や蜃などの、そもそも動物の形のままの妖怪もいる。
勿論、かなり人間に告示した姿の奴もいる。途中まで人間だと思わせて、襲うという手口が一般的だからだ。幻覚や変化を使わなくても、そもそも人間に似た形をしていれば、ぎりぎりまで接近出来るのである。
だが、完全一致は絶対にない。何故なら、もし種明かしをする際に、はっきりと自分が妖怪だということを示さなければいけないからだ。皮膚の色が違ったり、体の大きさや角などの特徴があったり、目や鼻などのパーツの大きさや数に違いがあるのも多い。最近は骸骨の奴を姿を良く見たな。
「そうだね、だがそれは特性的な差であり、後から着いてくる話だ。本質を着いていない、でも着眼点は正解だよ。ヒントをあげよう、悪霊の存在意義と、妖怪の存在意義を考えれば、答えが分かるよ」
存在意義……、なぜ妖怪は存在するのか。そしてなぜ悪霊は存在するのか。
「悪霊の生きる意味は、生存者への復讐。無念の死を遂げた自分に対する生贄を探し、道連れにするのが存在意義。妖怪は人間の恐怖する姿を見ること、そこに悪意は無く、ただの脅かし。妖怪は騙すことに存在意義がある」
「そう、妖怪はただ騙せればいいのさ。最近のホラー作家が『悪い妖怪』なんて空想の産物を世に送り出しているだけさ。妖怪とは脅かすことが仕事なんだ。比べて悪霊は脅かすなんて、そんな暇なことはしない。ただただ悪意を持って、人間を殺すことが、生きている意味なんだ。これが妖怪と悪霊の違いさ」