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強奪

「改めて、ご苦労様。恐らくこの映像が全機関に渡ったら、次の任務が舞い込むだろう。それまでは休憩だ、しっかり然るべき時までに、万全の体調でいてくれ」


 「はい、了解です」


 ダモンと五百機さんに一礼し、俺は自分の個室に戻ろうとしたら、鶴見に呼び止められた。


 「ちょっと、行弓君。クッキーを食べていって」


 「おぉ、そうだったな。じゃあ遠慮なく」


 鶴見がバスケットに入れて置いたクッキーを差し出す、星型やハート型など様々な種類の形がある。取り敢えず、一番手前の丸い奴に手を出した。その時である。右から何者かが、俺のクッキーを瞬時に奪い、持ち去った。


 あまりに突然すぎて何も見えなかったが、小動物に見えた。茶色い色で全身が毛に覆われ、素早い動きで、鶴見の両手に合ったバスケットも回収すると、そのまま机の下に姿を消したのである。


 「何だ、今の」


 「びっくりしたぁ」


 俺と鶴見はその小動物の向かった先を眺める。そこにはイタチや狐のような体躯をした、俺の身長の半分くらいしかない妖怪がいた。ちょうどよつばと同じくらいだろうか。頭には昔の旅人が使っていたような、笠という帽子みたいな物を被り、着物を着ている。


 「もしかしてカワウソなのかな?」


 「あぁ、本当だ」


 カワウソ。青森県、石川県に伝承の由来がある妖怪で、化け狐、化け狸と同様に人を騙す妖怪として有名だ。相撲が好きなことから、河童と同種の妖怪なのではないかという見解がある。なお騙し方のパターンが全国的にまばらであり統一性がない。美人の女性に変装して男を襲ったり、僧侶に化けて近づいてくると巨大化したという例もある。巨大化は入道系の妖怪の先輩特許なのだが……。妖狐、河童、入道とあらゆる特性を合わせ持つ、なかなか日本の中でも指折りの妖怪ではないだろうか。


 「そんな妖怪が何でこんな建物の中に?」


 「さぁ、というかクッキー食べないなら返して欲しいかな」


 食べない? 俺はもう一度カワウソを見た、確かにバスケットのクッキーにも、俺の取ろうとしたクッキーにも手を付けていない。腹が減っていたから、強奪した訳じゃないのか?


 「おーい、クッキー取ったくらいじゃ怒ってないよ。おいで、一緒に食べようよ。カワウソさん」


 鶴見の優しい声掛けに対し、全く反応せずに、ただ怯えるようにこちらを見ている。何を怖がっているのだろうか。ここは妖怪に対し、最も情の甘い機関、百鬼夜行だ。怯える理由なんかないだろう。


 「様子がおかしいな、あの妖怪」


 後ろから心配そうに、ダモンと五百機さんもやって来た。

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