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存在

 「ふん、決まっているだろう。奴隷だ」


 ……奴隷、どうしてその言葉を何の惜しみもなく、堂々と言えるのだろうか。その言葉にどんな辛い意味があって、どんなに悲しい現実があるのか。こいつは『そこのいるだけの正義』とかを、語っていた。結局、指揮官ってのは現場の苦しみを知らないのだな。


 「そうか、お前達は奴隷と仲良くなりたいと言っていたな。そして我々にも奴隷と仲良くなれと要求していたな。俺様の部下を襲ったのも奴隷解放などと、下らないことを大義名分に考えているからだったな。馬鹿者め、能のない猿が。奴隷の立ち位置に成り下がりたいのなら、勝手にするがいい。だが、俺様は御免だ。奴隷に愛想を振り撒くなど、断じてありえん。そしてそんな腐った根性で俺様を侮辱するとは……貴様等は奴隷以下の存在だ。恥知らず共、死を持って償え、まあ貴様らが何人死んだところで俺様は絶対に許さないがな」


 こいつ……、もう駄目だ。もう……駄目だ。

 ふと横を見ると、飛鳥や五百機さんも苦い顔をしていた。


 「すみません、もうこれ以上の会談は不能と判断させて頂きます。お時間をありがとうございました」


 五百機さんが先陣を切って立ち上がった。これにて話し合い終了って感じだな。あぁ、正座が痛かった。俺と飛鳥も立ち上がった。


 「おのれ貴様達。逃げるつもりか!! この『御門城』から逃げられるとでも思ったか」


 「逃げる? いえいえ、百鬼夜行に退却の二文字は無いですよ」


 何食わぬ顔で平然と言ってやった五百機さん。胸のポケットから小型カメラと小型録音機を取り出した。そう、これが俺達の隠し持っていた切り札である。俺が極力黙っていた理由はここにもある。


 「なんだ、それは」


 「引き籠っていては、こんな機械に触れることもないのか。おい、肉塊。よく聞け、私はこの会談が始まる前に、この会談の風景を余すことなく記録していたのさ。これで今まで引き籠ってニートしていた貴様の醜態が世間に晒される訳だな。そして、貴様の心得ている思考も。終わりだ、阿部家の末代!!」


 すげぇ、手の平の返し様だ。さっきまでの丁寧な口調とは打って変わって、完全に気色悪い男を蔑む、女性の風格だ。恐らく、さっきの起立の瞬間に録音と撮影のスイッチを切ったのだろう。


 「貴様ぁああああ!! 無礼だ、無礼だ、無礼だぁあああ!!」


 「ここは豚小屋だったかな、鳴き声が耳障りだ」


 「何が録音だ、何が撮影だ!! そんなもの破壊すれば済むことだ」


 「いいや、もう既にデータは仲間に送信した。仮にここで私達を殺しても、この記録は問題無く全国の陰陽師に伝わる」


 「う…、うっ、ううう……。理解している。私の部下達は皆、俺様の思想を理解してくれている、そんな公表、関係ない」


 はたしてどうかな、既にお前の後ろの人間達は、もう統領様のことを諦めたみたいだぜ。何もせず、何も言わず、絶対に奴の方は見ず、ぞろぞろと立ち上がっては、障子から去っていく。


 「待て、お前達。何をしている!! 早くこやつらを退治せぬか!!」


 「一番近くにいた部下達の様子がこんなんじゃ、望みはないな」


 「五月蠅い、黙れ。お前達のせいじゃないか、お前達がこんな余計なことをしてくれたから」


 先ほど自分の存在を『世界の平和』と表現した奴に対し、五百機さんはこう答えたのだった。


 「余計なのはお前の存在だよ」

 


 

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