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審判

 だが、この男は紛れも無く全陰陽師の機関を束ねる総指揮官。

 こいつとの口論を避けることは、今の俺達百鬼夜行にとって敗北を意味する。


 もうことは始まっているんだ、こいつを納得させない限り、一歩も前には進めない。

 飛鳥には絶対喋らないように言っているらしい、だから会話をするのは、残りの二人なのだが。俺と五百機さんが黙っているのには理由がある。

 俺と五百機さんとの間には、とある約束がなされている。

 まずは第一鉄則に『質問されるまで黙っていること』。無駄な挨拶や下手に回った態度は不必要。奴等は俺達の存在を対等になど見ていない。だから俺達も媚びた姿勢や礼節を極力省く。ワザと不快に思う態度を醸し出す。

 第二鉄則、これは俺だけに適応される法則で、『許可が下りるまで黙れ』。五百機さんは式神相手ではなく人間相手の交渉に素質がある。そう車の中で、リーダーが得意げにそう語っていた。俺の怒りと激情にかられた言葉では、内容云々の前に伝わらない可能性が高い。俺より五百機さんの方が、ずっとこの状況での対話に向いている。


 だが……。この鉄則には面白いタイミングがある。


 「阿部殿。我が大切な部下に何の根拠もなく暴力とは、一体どういうおつもりですか」


 ようやく五百機さんが動いた。まずは相手の言葉をそのまま返す。奴は先ほどに『悪いこと』という言葉を利用した。だから奴の『罪の意識を感じろ』という要求をそのまま返したのだ。同じニュアンスの言葉返し、嫌がらせのテクニックだ。あの豚に知性があるとは思えない、後ろの近衛兵が怖いが、単純な言い争いなら奴に遅れをとることはないだろう。


 「お前達が土下座をしないからだ!! お前達こそ俺の部下を訳の分からない理由で襲ったそうじゃないか。許さんぞ、お前達!!」


 おいおい、俺の先輩たる松林力也さんのお陰で、迷惑な反論が返ってきましたよ~。全く、ご本人に言ってやって欲しいぜ。


 「はい、部下を襲った……具体的には?」


 「あぁ!?」


 「ですからどのような具合に我々が襲って、貴方がどのように怒ってらっしゃるのか、具体的に説明して下さい。『悪いこと』の説明を」


 多分、この手の嫌味はこの男にしか効果がない返答だろうな。奴はただ自分が面倒事に巻き込まれたことに憤怒しているだけで、別に本当に部下を思って俺達を粛清しようとしているのではない。あの五百機さんの言葉は、本当に部下のことを大切に思っていて、全て即答出来る相手だったら、むしろこっち側が窮地に立たされていただろう。


 だが……、結果は案の定だ。何も奴は答えられない。


 「ふっ、ふざけるな!! 襲ったことは事実だろ!!」


 どうして後ろの連中が、奴を助けようとしないのか、今分かった。

 リーダーが俺をこの場に差し向けた理由も。


 阿部家は衰退している。間違いなく。

 この男の本質をこの場にいる人間が全員、理解している。こいつはもう駄目だ、背負って立ち上がるには、身が重すぎる存在だ。後ろの人達は分かっていたのだ、いつかこんな日が来るということを、誰かがこの力なき王を淘汰しに来る日を。

 立場上は口答え出来ない、命令無視出来ない、守らなければならない。だから仕方なくこの場に並んでいる。だが、本音は『守りたい』なんて思っている人はほんの一握りではないか? 


 こいつの御先祖様は確かに素晴らしい人だったのだろう。俺もそこまで否定する気はない。しかし、その『能力』のみが受け継がれ、気高き魂はどこか遠い星にでも消えてしまったのだろう。よつばを見ても分かるはずだ、奴は力がある、だが精神的にはまだまだ未熟だ。この豚は次元が違うがな。


 これが『受け継ぐ』という歴史のサイクルを繰り返し、上下関係や差別意識で作り上げたこの陰陽師という組織の、長年の『つけ』が現代になって回って来た証拠だったのだ。


 この後ろにいる人たちは立場が怖くて、黙っているしかない。

 だからこう思っているはずだ、『誰かこの男を問い正して欲しい』と。

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