門番
『邪魔だ、消え失せろ』と仕事中の従業員の方々に、遠回しに言われた俺達三人は時間もないので、俺の反応も待つことなく、目的地の門の前まで来ていた。
結局、何もかも結論が出ずにぐだぐだなまま、飛鳥も五百機さんも不満と文句を胸に秘めて、荒そうことを避けることのみに全力を注いで、この場に辿り着いた訳である。この二人の不機嫌そうな顔といったらもう……。
「えっと、到着ですね。御門城」
「そうだな」
「そうですね」
二人の反応が薄い。こんな重要な任務の前にパーティのコンディションは最悪だ。俺、生きてこの城を出られないかもしれない。任務とは全く別の意味で。
巨大な俺の身長の何倍もある木製の門に、何か中華風味な長槍を持っている門番の男が二人。これは式神ではなく、人間である。
一方は漁師のように頭にハチマキを巻きつけていて、落ち武者のような江戸時代初期の戦闘服をしている、そして髪の毛が無い。もう片方は……一般サラリーマンのようなスーツに眼鏡をしている、髪型は黒色に七三分けだ。最近、シュールな出来事が立て込んでいて、もう何が来ても驚かなくなった。
「あっ、百鬼夜行の御一行様ですね。お待ちしておりました」
門番の眼鏡がこっちへ駈けてくる。別に期待していた訳ではないが、もうちょっと厳重な守備管理だと思っていた。一見、やる気がないようにも感じられる。
「えっと、この紙に団体様入場のサインと一人一人のお名前を記入下さい」
これは……一体? こんなに奇妙な門番が受付をやっているというのに、何のリアクションも起こさず、淡々とボードの上の紙に必要事項を書いていく五百機さん。いつもの希薄な目で、ただぼーっと自分が書く番をじっと待つ飛鳥。慌てふためく俺。
何かさっきまで神経質になって、言い争っていたのが馬鹿らしくなってくるくらい平和な光景だ。
ふと気になってもう片方の門番を見ると、大事な槍を門に立て掛けて、椅子に座りこんで……寝てね!? あいつ、寝てね!?
「はい、あとはあなたの名前だけですよ」
不意に飛鳥からボードを渡される。慌てて記入欄に名前を書くと、すぐにスーツに帰した。
「はい、では真っ直ぐ行って頂いて、突き当りに向かって下さい。皆様の案内人が待っております」
手を中庭の方に向けた。軽い会釈をした後、二人が先んじて何事もなかったかのように、前へ進む。いろいろ言ってやりたいことはあるが、今の俺が何を喋っても逆効果な気がするので、静かにしておこう。
片目で後ろを眺めると、ゆっくり……門が閉じた。
まるで『逃がさない』とでも言っているかのように。