使者
冗談ですよね? だって百鬼夜行の使者です……って話し合いになる訳がないよ。捕獲からの拷問からの処刑っていうフルコースだよ。
「嫌ですよ!! まだ死にたくないよ!!」
「まあまあ、この僕が何の案もなく君達を選出したはずがないだろ?」
切り捨てても問題がないから? いやでも、俺はともかく五百機さんも差し出すのはおかしいか。じゃあ理由で俺と五百機さんを選んだ?
「まあ一つは行弓君の交渉力の腕を見込んでってのが一つ」
だからそんな能力は俺にないって、俺ってそんなに頭がいいキャラに見えてないはずなんだけどなぁ。だいたい話相手は妖怪ではなく陰陽師なんだろ。俺の交渉力も発動しないだろ。
「もう一つは、行弓君の存在だよ。君はつい五日前まで百鬼夜行のメンバーではなかった。君は元機関の人間に『百鬼夜行には入らない』としっかり言っている。だから彼らは君が我々のメンバーだと正確に把握していないんだよ」
「じゃあ俺はどう思われているんですか? いや、奴等にどういう設定だと説明する予定なんですか」
「うん。悪いけど行弓君は僕らの人質という設定になって貰うよ」
そういうことか。この作戦は確かに辻褄も合っている上に、俺と五百期さんの両方を同時に守れる。俺は百鬼夜行のメンバーではないのだから、本家機関は俺を守らなくてはいけない。俺は正式な陰陽師とすら認められていないから。関係ない一般人を人質にしている状態は向こうとしても具合が悪いはずだ。
「でも、もし奴等が五百機さんを襲ってきて、俺が保護されちゃったらどうするんですか? 五百期さんが危険すぎるでしょう。俺だって帰ってこれるか分からない」
「うーん、まあね。でも二つ勘違いがあるかな。まず君達は最終決戦に行くのではなく、話し合いの使者として行く訳だ。自分達はお客様だって感覚でいいんだよ。あと、君は君の教育係を舐めている。五十鈴ちゃんは最強なんだよ」
最強って、いや百鬼夜行に属している時点で、ある程度の強さはあって、捕獲不能レベルの妖怪を式神にしているんだろうけど。
さっきから気になっていたんだが、五百機は何故か静かなままだ。一切何も話そうとはしていない。座ったまま膝の上で両手を組んで、先ほどの俺と同様に下を向いている。
「五十鈴ちゃんは今、この任務をどうやって完遂すべきか考えてくれているんだよ。君の言うとおり、危険度の高い任務だ。そこに作戦の為とはいえ、戦闘経験の少ない行弓君と二人で行くんだ。この作戦の至らないところは全て五十鈴ちゃんの負担になっている」
ここでやっとこちらの視線に気づいてくれて、五百期さんが声を発した。
「覚悟の上さ。問題なく事を済ませる。本家の機関を説得出来るとは微塵も思わないが、せめて我々の意思を伝える義務はしっかり果たす」
決意に一寸のブレもない、この人は本物のプロなんであろう。こういう仕事の。内心は絶対に怖いはずなんだ、それをしっかり心に封印している。