天主
「いいかい? この後、僕はとある場所から君達と一旦、お別れになる。これから君たちはこの車で次の仕事場に向かって貰う。だから君たちにはこの場である程度の作戦の説明をさせて貰いたい」
リーダーは俺に切り替えろと言った。確かにいつまでもこのままいじけていても仕方ないのは確かだ。負けるのは慣れている、負けに対し何も感じないあの時とは違う、この敗北を抱え俺は今日を戦う。
「行弓君、それでいい。我々には君の存在が必要不可欠なんだ」
こいつの言葉はニュアンスだけを聞けば信用出来ない気になるのだが、何故か俺は信用してしまった。例え嘘でも誰かに期待して貰えるのは嬉しいことだから。
「じゃあ、二人にお願いというのは他でもない。次の捕獲不能妖怪の捕獲……をお願いしようと思っていたんだけどねぇ。ちょっと僕らが海でバカンスをやっていた時に、重大事件が発生したみたいでねぇ」
重大事件? 一体、何の話だ?
「ほら、僕らの討伐隊っていう奴等がもろもろいたじゃん? そいつは各機関がそれぞれ独立して設立していたものだったんだけど。馬鹿の松林の陰陽師を襲う行為とか、愛しの鶴見ちゃんの自爆テロとか、いっぱい重なっちゃってさぁ。まずいことに我々に対するラスボス的な存在であるあの男が重い腰を上げちゃったんだよ。松林が戦闘の最後に口を滑らせたのを覚えてる?」
それは俺達の喧嘩を売っている奴か、推測するに妖怪を奴隷のように扱うことをよしと見なしている野郎とみて間違いない。あの時には松林の言った奴の正体を、あまり深く考えはしなかったが、どんな人物なのだろうか? そのシステムを創作した陰陽師は太古の人間であって、今の世界に生きてはいないが、その考えを次世代に残し続けてきた一族。まさか……。
「阿部家の人間ですか?」
「まぁ、そういうことになるね」
阿部家初代、阿部清明から由緒正しく受け継いできた、陰陽師最高機関の天主。それ即ち、全陰陽師機関総指揮権の所持を許されるということ。奴等が動いたということは、これで俺達は本当の意味で陰陽師に関わる全ての存在を敵に回したことになる。
「でさぁ、これは完全に私の失態なんだけどさぁ。あのホテルでバカンスやっていたのが……全部ばれていたみたいで。君と松林君の戦闘中に僕の脳内に伝達機能での念力が送られてきてねぇ。お話合いがしたいとさ。まずは使者を呼んでくれって」
おいおい、だから言ったじゃないか!! ロビーでのんびりと作戦会議をしていいのかって!!
「で、応じる気ですか?」
「勿論。百鬼夜行に撤退の二文字はないよ。だから僕は使者とやらに五十鈴ちゃんと行弓君を選んだ」