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 ホテルからの帰りの車の中、俺はまた一人でいじけていた。

 俺は敗北した。リーダーのお陰で脱退は免れたが、これで失った物がある。

 発言権だ。俺は当初にこの勝負で勝利した時の条件として、全国の陰陽師を襲って捕獲不能の妖怪に対し『仲間を解放するから協力しろ』という半ば強引かつ他の機関からすれば完全に迷惑な作戦を撤廃すること、を要求するつもりだった。


 俺が仮にあの闘いに勝利していたとしても、それが成就していたとは思えない。だがある程度、俺が松林に正式に撤廃を申し込む状態になった時に、必ずこの勝利が精神的に役に立っただろう。あんな強情な性格には敗北の二文字が一番有効なのだ。

 俺は今の時点で百鬼夜行から脱退はしていない、リーダーが俺の無茶な行いを察して、俺を救ってくれた。松林の『俺を脱退させる』という案は結局は破棄になっているのだから。結果的に俺はこの模擬戦にするというリーダーの決断がなかったら、百鬼夜行を抜け、ここから元の機関にも帰れず、どうしようもない状況になっていた。


 「ちくしょう」


 そう小声で言った。

 俺は昔、とても貧弱だった。そして負けることに何の感情も抱かなかった。俺は陰陽師としての才能が始めから備わっていないのだから、負けて当然であり、負けることは無罪であり、負けることは日常だった。


 だが最近は絶対に負けられない闘い、というのがあった。そして俺は自分が弱さから覚醒し、弱さを克服した気でいた。強くなったとまでは、思っていない。しかし、絶対に負けられない闘いにくらいは勝てる実力が自分にはあると思っていた。自惚れではあるが、心のどこかで自分に自信が着いていたのだ。

 だが、奴の言うとおりに、俺の淡い幻想は見事に木端微塵に打ち砕かれた。

 

 あの松林との模擬戦だって俺としては絶対に負けられない闘いだったのだ。

 俺は何か勘違いを起こしていたのかもしれない。

 俺は生まれ変わったのだと。何のことはない、俺は変わっていない。仮に少しは変わっていたとしても、俺の思い描く理想に到達していない。


 結局のところ、俺は依然として負け犬のままなのだ。



 「行弓君。お悩みのところ申し訳ないが、お話があるよ」


 俺が下を向いて、情けない顔をしていると、リーダーから声が掛かった。

 因みにこの車には、俺とリーダーと五百機さんが乗車している。

 来た時と同じメンバーだ。


 「行弓君、落ち込む必要性はないと言ったはずだ。いい加減切り替えてくれないか。我々は松林の馬鹿と君自身を除き、誰も君が敗者なんて思っていないよ。これから君と五十鈴には任務があるんだ。モチベーション戻して貰わないと、だから戦って欲しくなかったんだ」


 リーダーはワザとらしく笑った、いつもの営業スマイルではなく、これは誰かに笑って欲しい時にする笑い方だった。

 

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