残機
あんな鎧、見たことが無い。まるでがしゃどくろと松林が合体してしまったみたいだ。奴が言うには、憑依だそうだが。
憑依といえば、久世謳歌先輩と村正先生の関係を思い出す。
村正先生は元から剣の中に意識を持つ妖怪であり、憑依しなければ、自分から動くことすら出来ないようだった。鞘にとる封印まであったのだ、非常に不便な環境で生活していたらしい。
こいつの場合はちょっと違う。がしゃどくろは独立した一つの妖怪であり、足が無くても全く困らないくらい、動くことに特化している。分裂した時の俊敏な動きときたら圧巻の極みだ、さらに地面の中に潜れる機動性にまで特化しているときた。村正先生とは違い人間の肉体供給による憑依が必要な体とはさらさら思えない。そもそもがしゃどくろに、そのような言い伝えはないはずだ。
じゃああの憑依装甲とは何なのか?
「おいおい、いつまでそんな高いところから見下ろしてやがる」
松林が俺に向かって、拳を向けた。するとその先からテニスボールサイズの球体の妖力の塊が出来上がった、そのまま爆発音と共に俺に向かって飛んでくる。
「あぶねぇ!!」
烏天狗が風の向きを動かして貰い、ぎりぎりで回避した。しかしあのスピードは恐ろしい、……全く見えなかった。
「軽い絶望ってとこか、まあお前が上で、俺が下って構図が至極気に入らねぇが、まあいい。こうやって残機が残り一機のシューティングゲームっていう構図の絶望をお前は味わうんだからなぁ」
その言葉と共にさっきの球体の妖力玉が、松林の全身の周りに所狭しと並べられる。目分量だが、五十発はあるぞ、あれ。おいおい、嘘だろ。
「泣きっ面かいて、逃げ回りやがれ、ド低能。俺に恥かかせた罪は、このクソゲーで晴らさせて貰うぜ!!」
いろんな意味で理不尽だ。そう思う間もなく、妖力の散弾が四方八方飛び散った。俺はどうしようもなく、また鬼神スキル鋸貝を連発しようと思ったが……しかし、出来なかった。奴の散弾の攻撃範囲が広すぎた。一回目にランダムに移動した場所で既に直撃。追い打ちを躱せず、鋸貝を発動するタイミングすらなく、ただなす術がない。
二次被害もある、式神達も被害は甚大だった。二体とも躱しきれないと判断したのだろう、ガードの体制に入ったのは良かったが、火車の方は無力と言わんばかりにあえなく地面へ墜落、烏天狗も耐えきったのは良かったが息が上がっているのが分かる。
俺も火車同様に、無様に地面に落ち、痛みに苦しみもがいていた。