吐血
「おぉ、なんか来たな」
今度は俺をリンチしていた分裂の三体が合体した。そこそこの大きさになって、突進してきた火車を両手で受け止める。そして静止させた後、そのまま地面に叩きつけた。
「なんだよ、大きさが自由自在かよ!!」
「はっ、まだ叫ぶ元気があるのかよ。おい、残り二体のがしゃどくろ達よ、そのクソ餓鬼にトドメをさしやがれ!!」
そうだ、俺自身もピンチだった。ちくしょう、どうすりゃいいんだ。
がしゃどくろが足を振り上げたその時、二体が上空へ浚われた。
烏天狗だ、奴も俺を助ける為にここまで来てくれたのだ。
「烏天狗!!」
「全く世話がやける主人じゃ。おい、こやつらをどう始末してくれよう。そこの若いの、恐らくこやつの属性は『土』。ゆえに柔軟性に富み、再生能力に優れる。このまま地面に叩き落としても、およそダメージはない。そうじゃろ」
「ちっ、流石は名の知れた大妖怪だ。と言ってやりたいが、結局攻略方法が分からないなら不合格か」
「うむ? 小童。お前は本当に身の程をわきまえんのう」
二体の骸骨を縛っていただけの風が、今度は黒い台風に変わった。荒々しく吹き荒れるその風が、力強くうねり、烏天狗の羽を撒き散らす。
「どういうつもりだ、じじい。どんな威力で落とそうが、元から骸骨のがしゃどくろには無意味だ。ばらばらになったって、地面に潜ってまた何度も再生するだけだ。大きさも、いくらだって変えられる。そのまま、五分の二だけでも、拘束しておくのが、一番賢い戦法じゃないのか」
今のは松林からの助言に聞こえた、ただの自分の式神に対する絶対的自信からくる余裕なんだろうが。ただ言っていることは、正しい気がする。残りの奴も、捉えてしまえば、地面の上から俺と火車がトドメを……いやでも、まだ地下にあの骸骨がいないっていう保証がない。
「烏天狗、悔しいがここは言うとうりに……」
「するか、アホ。行弓、だからお前はアホなんだ」
その言葉と共に、勝手に命令無視した烏天狗が台風をさらに上空に持ち上げると、さらに加速させて……地面に……当たらなかった。地面すれすれで急旋回し、向かった先は。
「何っ!!」
「わしの獲物はお前だけじゃ、小童」
骸骨入り台風は見事、その骸骨の使い手であった松林の腹部に直撃。そのまま、後方に大きく飛ばされた奴は、若干吐血しながら海に放り込まれた。
改めて思った、烏天狗の強さが本当にチートだ。つーか、俺が小学生の頃に、落ち毀れ扱いされたのって、こいつが働かなかったせいであり、俺は本当はやれば出来る子だったんじゃね? まあ式神に舐められている時点で、陰陽師失格か、俺はやっぱり駄目駄目だな。