分裂
「お前、何を考えてやがる!!」
俺の狙いが分からないまま、まさか接触状態に持ち込まれるなんて思ってもいなかっただろう、他人のことを馬鹿にして胡坐をかいていたお前の愚鈍さを恨むんだな。
「……何故だ、妖力が奪われる!! 貴様、これはどういった!!」
「お前に教えてやる義理はないね」
俺は奪った妖力をしっかり消費するために、上空にいる火車に送り続けた。
火車の姿が、だんだん大きくなって、形態も変わっていく。
戦車の大きさのままこいつの上に突き落とし、押し潰す。
取っ組み合いの体制で、お互いの腕をお互いの腕で、掴みあっている。この状態でいい、このまま妖力を奪いきって、トドメに戦車を落とせば。
俺の勝ちだ。
「ふざけるな、クソ餓鬼が!!」
そう簡単にはいかなかった、がしゃどくろが動いたのだ。
動いたというのは、力づくで強引に俺を引き離そうとした。……分裂して。
がしゃどうろは大きさは利点であり、弱点であった。あの巨大な体は、機敏に動くことには特価していない。モーションが遅いのだ。だから先ほどのラッシュでも俺ごときに避けられた。
そして、すぐ接触状態の俺に攻撃出来なかったのもそのせい。だって、自分の主人を攻撃してしまう可能性があったから。大きい妖怪とは、こういう弱点を想定して戦うべきだ。
だから奴が取っていた対策も当然あった。それが、髑髏分身である。
数は五体、分裂したとはいえ、一体二メートルくらいの大きさはある、しかも今回は五体満足だ、肉は無いけど。襲ってきたら俺一人では対応出来ない。いくら分裂して小さくなったとはいえ、あの式神から妖力が奪えるとも思えない。十分な量の妖力を奪えた訳ではないのだが、残念ながらここは一旦、退却だ。
「烏天狗!! 俺を空に持っていってくっ、……何っ!!」
「お前が掴んできたんだろうが、逃げんなよ」
こいつ、今度は俺が逃げれないように今度は拘束してきやがった。今の俺はなんの妖力の鎧も纏っていない。さっきの大型の一体の攻撃は鋸貝で躱せたが、はたして先ほどより機敏な五体を躱せるはずがない。
ちくしょう!! いきなり追い詰められた!!
「お前は毎回毎回甘いんだよ、楽観主義が!!」
その言葉と共に、髑髏の蹴りが俺の脇腹を捉えた。松林から引き離された俺は砂塗れになりながら、摩擦の少ない大地を滑る。慌てて蹴られた部分を手でおさえた。
「ぐうぅぅ」
「イテェか? はっ、ざまあねぇな。落ち毀れ」
そのまま立ち上がれない俺に対し、五体の骸骨による足蹴りが始まった。とにかく丸まってガードするが、充分痛い。
「止めろおぉぉぉぉぉぉ」
音のした方を片目で見ると、骸骨の肩と肩の隙間から、ミニ戦車のモードになっていた火車が上空からこっちへ突進してくるのが見えた。